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コラム

仮想化技術編

第5回 『サーバ仮想化のまとめ』

仮想化技術編

LPAR方式とVM方式

さて、この連載も最終回となりました。前回は運用に関する注意点を考えてみましたが、今回はまとめの意味合いもこめて、仮想化を導入する際の仮想化方式選択での注意点を考えてみましょう。

連載第3回ではLPAR方式とVM方式の違いを説明しました。どういう仮想化方式を選択するかの第一の分岐点はここでしょう。

高信頼なシステムを構築したいとか、従来物理サーバで運用していた運用方法を踏襲したいといった場合にはLPAR方式が適しており、ベンダサポートが終了したWindows2000のようなOSを使い続けたいといった場合にはVM方式が適しています。日立のブレードサーバBladeSymphony BS320、BS2000ではLPAR方式のVirtageはもとより、VM方式の仮想化ソフトであるVMwareやHyper-Vなどもサポートしていますから、ニーズに応じて選択の幅が広くなっています。

図1 ニーズに応じて適材適所が可能なBladeSymphony

図1 ニーズに応じて適材適所が可能なBladeSymphony

サポート終了仮想化ソフトへの対応

VM方式の仮想化ソフトを選択する際にぜひ気をつけていただきたいことは、

  • 仮想化ソフトにもサポート終了時期が来る

ということです。例えば、ある仮想化ソフトではそのメジャーバージョンの発売開始から(ユーザが購入した日からではない)5年間がサポート期間となっています。自分が購入した時期が、そのバージョンの新規リリース後2年経過後だっとすると、サポートを受けられる期間は残り3年となり、その後は仮想化ソフトを新バージョンに切り替える必要があります。サポートは無くてもいいから使おうと思っていても、今度はハードのサポート終了時期が来てしまいます。今度は、

  • 新しいハードでは古い仮想化ソフトは動作しない

という事情があるので、結局新しいバージョンの仮想化ソフトを導入しなければならなくなります。仮想化ソフトと言えども一種のOSですからやはりレガシーOS問題が起きるのです。

新しいバージョンの仮想化ソフトを使っても、その上で動作する仮想マシン(VM)は互換性を持って動かせるから問題ないのではないかと一般的には思われています。しかし、仮想化ソフトもソフトウェアなので、以前のバージョンで使えた機能を廃止して新機能に置き換えてしまうといった機能変更がよくあります。仮想化ソフトの運用に関連した機能での変更があると、仮想化ソフトに個別対応するデータセンタ運用に変更が強いられるため、仮想化ソフトのバージョンアップを実施すると運用の設計変更が必要になってしまうのです。

図2 仮想化ソフト自身のレガシー問題

図2 仮想化ソフト自身のレガシー問題

例えば3年保守のサーバハードウェアと仮想化ソフトを利用すると3年ごとにハードと仮想化ソフトのバージョンアップが必要です。サーバハードだけを7年保守(例えばBladeSymphony BS320のロングライフサポート)にすると、仮想化ソフトのバージョンアップだけが発生します。

サーバハードウェアとしてBS320を利用し仮想化機構としてVirtageを利用すると、ハードと仮想化機構を一体として長期間のサポート(ロングライフサポート)が可能ですから面倒なバージョンアップ作業が発生しなくなります。Virtageを使用するとBladeSymphonyというハードにロックインされて良くないのではないかという考え方がありますが、Virtageで実現されたLPAR(論理サーバ)は、連載第3回目でも触れたように、物理サーバとほとんど同じ運用が可能ですから他社の物理サーバへの移行も容易で移行性には阻害要因はありません。むしろ、VM方式の仮想化ソフトを使用するとその仮想化ソフトにベンダロックインされる結果となります。VM方式の論理サーバは物理サーバとはかなり異なる運用をする必要があり、各仮想化ソフトベンダの間でも相当に異なるため相互間で運用の互換性がなく、他の仮想化ソフトに移行できないのです。

物理サーバとの運用の互換性を考慮するとLPAR方式が一歩優位となっています。

図3 ロングライフサポートのハードとその仮想化ならバージョンアップ頻度を削減

図3 ロングライフサポートのハードとその仮想化ならバージョンアップ頻度を削減

VirtageならOracle DBなど他社ミドル製品も安心して利用可能

VirtageはIAサーバでは他社がなかなか実現できていないLPAR方式を実現しています。LPAR方式はメインフレームやUNIXサーバのような高信頼・高性能を要する分野では当たり前の技術ですが、本質的にはサーバベンダでないと実現できない技術でもあるのです。したがって、自社でサーバハードを設計できないソフトウェアベンダは、どうしてもVM方式で実現せざるを得ないという背景があるのです。

LPAR方式はいくつかのミッションクリティカルな用途に対応するミドルソフトベンダから認められています。例えば最近(2011.6.13)発表された例では、オラクル社が同社のデータベースソフトOracle DB(RACも含む)のサポートプラットフォームとしてVirtageを認定しました。LPAR方式が評価されたもので、他に正式認定されているIAサーバ(x86,x64)上での仮想化ソフトはオラクル社自身によるOracle VMしかありません。

他にもSymantecのデータバックアップソフトNetBackupの認定を受けています(2011.6.2発表。BS2000 FCポート占有構成)。バックアップサーバはディスクからLTOなど外部記憶装置へのバックアップ処理を実行しますが、その際には大きなCPU性能とI/O性能を必要とします。そのため一般には仮想化されたサーバをバックアップサーバとして使用することは許されていません(バックアップ対象としては許されています)。VirtageのようなLPAR方式なら性能的な問題も、並行して動作している他の論理サーバへの影響も無く、仮想化されたサーバをバックアップサーバとして利用して問題ないと認定されたのです。

このようにVirtageは物理サーバとの互換性に優れているLPAR方式を採用しており安心して重要なシステムに適用可能です。

終わりに

5回に渡り、サーバ仮想化技術の入門からちょっと難しい利用法まで解説させていただきました。内容についてもっと詳しく知りたい、など、ご希望がございましたら窓口にお声がけいただければと思います。技術的に考えるとLSIの集積度は向上するのに発熱の問題からクロック周波数を上げられないという背景があるため、今後はますますCPUのマルチコア化が進み、よって、サーバ仮想化技術を使わざるを得ない時代になっていきます。こうした時代のデータセンタ構築のため、今回の連載を皆さまのお役に立てていただければ幸いです。

ご愛読ありがとうございました。

(参考文献)
(1)http://www.hitachi.co.jp/virtage/
(2)上野仁;日立製作所Virtageによるサーバ仮想化,すべてわかる仮想化大全2011,日経BP社,pp.168-178(2010)
(3)庄山貴彦,上野仁;日立製作所Virtageによるサーバ仮想化,すべてわかる仮想化大全2010,日経BP社,pp.184-196(2009)
(4)H. Ueno, S. Hasegawa, T. Hasegawa; Virtage: Server Virtualization with Hardware Transparency, Euro-Par 2009 Workshops, LNCS 6403, pp. 404-413, Springer-Verlag Berlin Heidelberg (2010)
(5)H. Ueno, S. Hasegawa; Virtage: Hitachi's Virtualization Technology, GPC 2009 Workshop Proceedings of Conference, pp. 121-127. IEEE-CS, Los Alamitos (2009)

世界で戦う準備はあるか
上野 仁 氏
上野 仁 氏
株式会社日立製作所 エンタープライズサーバ事業部 第二サーバ本部第三部 担当部長 メインフレームOSやファームウェア、システム管理ソフトウェアなどの研究開発の他、データセンタでのSaaS商品開発などを経験。データセンター運用での使い勝手向上を念頭に置いた日立独自の仮想化技術開発を行っている。新しいサーバ活用技術に興味を持ち研究を続けており、余暇ではゴルフを通じて仲間作りを進めている。技術士(情報工学部門)