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コラム

国際物流編

第1回『グローバル生産における国際物流管理の重要性と難しさ』

国際物流編

皆さん、はじめまして。鈴与システムテクノロジーの植松と申します。国際物流をキーワードにコラムを担当させていただくこととなりました。これから数回にわたり、生産や販売のグローバル化に伴って発生する課題とその解決策について、特に物流やロジスティクスの観点から見ていきたいと思います。

弊社は物流をコアビジネスとし商流事業、建設、航空事業など多面的に事業展開している鈴与グループの一員であり、その中で情報事業を担う企業としてシステム開発やソフトウェア販売などを行っています。この「物流」という業務あるいは言葉は、製造業の皆さんが諸問題を考えるときには、比較的、地味な存在でなはいかと思います。私共が商談などを通じてお客様から伺うお話から感じる印象として、物流は生産、販売、購買等の基幹業務に付帯する二次的な業務と考えられることが多いように思います。物流に関わる問題を抱えていらっしゃる企業は少なくありませんが、対応すべき課題の中では、少し優先順位が低くなる傾向があるようです。
しかし、言うまでもなく製品を作り消費者に届ける行為は物流そのものであり、それがスムーズに機能しなければ最適な事業活動は実現しません。運送や保管などの物流業務は専門の物流業者に委託されることも多いと思いますが、委託した業務が適切に実施されるようマネジメントしなければ、計画通りの生産や販売活動はできませんし、予定通りの利益を生み出すことも難しくなるでしょう。その点で、物流の改善やロジスティクスの強化は利益を増やすための施策ということもできます。
あらゆるビジネスがグローバル化している昨今、物流も国際化が進んでおり、その管理が難しくなってきています。本コラムでは、生産、販売、購買といった製造業のコアビジネスにおいて、特に国際物流の観点から、物流活動やロジスティクスの問題に起因して発生するリスクとその対処について整理していきたいと思います。

グローバル生産体制の拡大

製造業のグローバル展開のダイナミックさは、改めて言うまでもありません。それに伴って、物流業界でもグローバル化は進んでいます。アジア地域や中南米など、製造業の企業が活発に進出している地域に対して物流業者も拠点展開を加速しています。
それは日本国内の物流活動が海外にシフトしているということに他なりませんが、それだけでなく、物流の行為においても一つの国の中で完結していたものが、国をまたがって動く国際物流が基本になるということを意味しています。
グローバル生産のスキームは、大量生産大量輸出から現地生産、さらに最適地における工程分業へ進化してきました。最適地での工程分業では、生産拠点は生産の条件に最も適した場所に展開します。生産拠点は消費地と同じ国内にあるとは限らず、大量の製品が輸出入されることになります。また、調達に関して言えば現地調達が増えており、さらに生産拠点と同じ国内における調達だけで完結するとは限らないという状況になっています。
図1を見ると、海外生産拠点からの出荷先として生産拠点の周辺国や世界各国に輸出される傾向が強まっているのがわかります。特に、ASEAN地域ではその傾向が顕著です。図2は調達先についてですが、こちらも生産拠点以外の周辺国から調達する流れが増えていることが読み取れます。ASEAN地域では、周辺国の日系企業や非日系企業、その他の世界各国企業、いずれの調達も大きく増加しており、国籍や所在地を問わない調達が今後の主流になるであろうことを予感させます。

図1 我が国海外現地法人(製造業)の仕向地の推移<図1 我が国海外現地法人(製造業)の仕向地の推移>
出展 : 経済産業省 2011年版ものづくり白書

 

図2 我が国海外現地法人(製造業)の調達先の推移<図2 我が国海外現地法人(製造業)の調達先の推移>
出展 : 経済産業省 2011年版ものづくり白書

 

最近、グローバル調達という言葉を聞くことが増えていますが、これが、国籍や所在地を問わない調達です。我々の商談においても、複数の大手の製造業企業から「調達を見直したい」という声を伺っています。世界中に展開している完成品生産工場、モジュール生産工場における部品や資材の調達について最適な条件のサプライヤから調達できるようにしたい、ということです。もちろん日本の生産拠点においても同じことであり、日本国内のサプライヤだけでなく、世界中のサプライヤを対象に最適条件の企業から調達する動きが増えているわけです。その結果、調達する部品の物流は日本の国内物流だけでなく輸入を伴う国際物流になります。このような「物の動きの変化=国際物流の増加」が世界中の様々な地域で広まっています。

国際物流に起因する課題

このように、国内物流が国際物流に切り替わることにより発生する様々な課題の中で、重要なのは「①リードタイムの長期化」、「②物流プロセスの複雑化」、「③物流のブラックボックス化」の3つのポイントです。これらのポイントは、国内物流と国際物流では大きな違いがあると共に、企業にとってマイナスの影響を及ぼすリスクをはらんでいます。

①リードタイムの長期化

製造業の皆さんにとってのリードタイムというと、開発リードタイム、設計リードタイム、調達リードタイム、製造リードタイム、配送リードタイム、間接業務リードタイムなどが考えられますが、ここでは調達リードタイム、配送リードタイムのことをリードタイムと表現させていただきます。
国際物流では物流動線が長くなる上、その工程が複雑化するためリードタイムが長期化することになります。国際物流においては貨物船による海上輸送が頻繁に使われますが、海上輸送の場合、日本からアジア各国まで数日程度、北米西海岸は2週間程度、ヨーロッパまでは一ヶ月程度の日数がかかることもあります。さらに、港までの陸送期間、積み替えのための日数、通関等の諸手続き日数などが加わりますので、納品先に貨物が届くまでの期間は、日本の国内輸送とは比較にならないくらいの長い時間が必要になります。このリードタイム長期化が企業にとって様々なリスクを生む要因となってしまうのです。
生産管理を行う上では、部品・資材などのリソースは必要な量が必要な時に揃っていることが前提になります。日本国内のサプライヤから部品を調達する場合には、JIT納品をしてもらうことによって、このような管理を高い次元で実現することが可能です。しかし、リードタイムが長くなると、生産に必要な部品を発注するにあたり、将来の入出荷、在庫数を予測しながら、リードタイム(発注してから納品されるまでのリードタイム)を勘案しなければなりません。この「予測に基づく発注(確定発注)」により「その日の生産に必要な部品を揃えておく」という前提を維持することになりますので、欠品や在庫過剰を防ぐ最後の砦と言えるでしょう。リードタイムの長期化は、予測する対象期間が長くなることを意味しますので、この精度を悪化させる可能性があるわけです。しかも、国際物流におけるリードタイムは変動するリスクが大きくなりますので、さらに予測の精度にとってマイナス要素が増えてしまいます。
この精度の低下をカバーするために、一般的には安全在庫を設定して保有することになります。その際、欠品率の低下を重視すれば安全在庫の量が増加し在庫負担が増してしまいます。安全在庫の設定の仕方は企業により異なりますが、通常はある程度の欠品リスクを受容するため、納品遅延や不良品発生などのイレギュラーが発生すれば在庫不足になる可能性は残ることになります。在庫増加の悩みが無くならない一方で、欠品や在庫不足を補うための緊急輸送も根絶できません。在庫増加を防ぎつつ欠品も起こさない、最適在庫を維持するための最適発注は、上述の「予測に基づく確定発注」のさじ加減に掛かっているということもできます。そして、その業務は現場の担当者が属人的に行っているケースも少なくないようです。

②プロセスの複雑化

国際物流は、移動距離が長いだけでなく、多くの業務プロセスを経なければ目的地に到着することができません。国際物流では国内物流との決定的な相違点として、「輸出入」という行為が必要であり、そこには多くの輸出入特有の業務が発生します。(図3参照)
しかも、これらの業務は一つの会社の仕事で完結しません。通関業者、トラック業者、海貨業者、荷役業者、船会社、保険会社、銀行などの多くの企業が連携しながら一つの輸出入を進めていくと共に、税関や関係省庁などの官庁も必ず関わってきます。一連の業務は標準化が難しく多くの個別手順が存在するため、非常に面倒で時間が掛かる業務となっています。
これらの業務では、常にイレギュラーの発生リスクが付き纏います。通関申告・許可における遅延、天候等に起因する輸送手段の遅延、船積書類の作成ミスや遅延など様々な原因により予定外の事態が発生する可能性が残ってしまいます。これらのイレギュラーは、結果的に輸出入プロセスを滞らせ、貨物到着の遅れ(リードタイムの変動)という形で生産、販売工程に影響を及ぼすリスクになってしまいます。
輸出入業務では関与するプレーヤーが多いだけでなく、そのプレーヤーが複数の国に分散するため、各企業の事情や国、地域の特性などが複雑に入り組むこととなり、業務標準化等の改善を難しくしていると言えるでしょう。これまでも物流標準化や物流情報基盤整備といった取り組みが業界や国、あるいは国際的なレベルで検討されてきた経緯はありますが、これまでのところ決定的な成果を挙げるに至っていないのが実情です。
結果的に、輸出入業務においては一定のイレギュラーが発生する可能性を織り込んだ上で、自社でできる改善や管理強化を図る必要が出てきます。自社内の日本国内の関連業務だけではなく海外拠点における業務も管理できるようにする、業者に委託している業務についてもできるだけコントロールするといった取り組みが求められますが、企業の状況によって対応できる範囲に限界が出てしまうのも事実でしょう。

輸出入の主な流れ<図3 輸出入の主な流れ>

③プロセスのブラックボックス化

国際物流では、そのプロセスがブラックボックス化する傾向があります。これは前述の通り、業務プロセスが複雑でプレーヤーが多く、業務の標準化が難しいことに起因して、必要な情報が集約しにくい、という事情によります。
そのようなブラックボックス化している状態を改善すべき情報の中で、留意すべきものとして「物流コスト」が上げられるでしょう。コスト把握は最終的な収支分析に必須である上、コスト削減のための分析にも重要な要素です。また、私共の印象では、物流コストを適切に把握できていない、という悩みをお持ちの企業が少なくないようです。
「物流コスト」を考える場合、保管や輸送に関して発生する自社内のコストと委託業者に支払う経費の他にも、物流関連事務処理に関わる費用、生産等のプロセスにおける物流関連コストなど、非常に広範な範囲が対象となります。これらのコストを把握することは、元々容易ではありませんが、比較的、数字を切り出しやすい委託業者への支払いについても適切に把握することが意外と難しいものです。
国際物流において業者に支払う経費としては、運賃(海上運賃、航空運賃、トラック運賃)、通関料、保管料、荷役料、書類作成料等々が考えられますが、これらの委託先は1社とは限りません。また、それぞれの業者ごとに委託された条件での料金請求をすることになりますが、それは荷主企業にとってわかりやすい単位にまとまっているとは限らないのです。例えば、コンテナ運送料は、通常、コンテナサイズと運送距離で運賃が決まります。東京港~横浜港の区間で40フィートコンテナ1本あたりいくら、という具合です。コンテナの中に複数インボイスの貨物を混載してもトラック業者からの請求はコンテナ1本あたりの料金です。そのため、支払経費としての金額は明確に把握できたとしても、輸出入の契約単位、あるいは品目単位など、本来、自社のコスト把握として必要な分析はできません。しかも、国際物流に関する経費の「括り」が常にコンテナ単位であるわけではなく、倉庫なら坪単位、通関なら申告書単位など、プロセスの範囲によってまちまちになります。このようなことが輸出入のプロセスの至るところで発生しますので、自社のある製品を輸出入したときに、どこからどこまでの区間にどれくらいのコストが掛かったのか、委託先からの請求金額情報だけでは把握することが難しいのが実情です。
物流コスト以外にもブラックボックス状態を改善すべきものは非常にたくさんあるといえます。大まかに言うならば、今、どこに、何が、いくつあって、いつ、どこに移動するのか、ということを具体的に把握することはロジスティクスの最適化に必要です。ただし、これらの情報管理の問題は、既に述べてきた、リードタイム長期化に対応した入出荷、在庫予測の問題や複雑な輸出入プロセスを管理する問題などと重複すると考えることもできるでしょう。つまり、ブラックボックスの可視化、という問題は「可視化」自体を目的として単独で存在するのではなく、在庫削減のための在庫予測や業務管理強化といった目的を実現するための手段、ということになります。

本コラムでは、国際物流の拡大に伴って発生する主要な課題として、リードタイム長期化による適正在庫維持に対するリスク、複雑な輸出入プロセスに起因する業務イレギュラー発生のリスク、物流コストのブラックボックス化のリスクという問題を中心に整理していきます。次回は、各課題について、もう少し具体的に掘り下げた上で、その対策について述べたいと思います。

 

第2回コラム『国際物流管理における主な課題と対応策』に続く

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植松 謙治 氏
植松 謙治 氏
鈴与システムテクノロジー株式会社
常務取締役 企画開発部長
鈴与の物流企画室長、情報システム室長などを経て現職。入社以来30年、物流情報システムを利用者、作り手両方の立場から見てきました。現在は、物流などの業務ノウハウを生かした新しいパッケージシステムの開発と事業化に日々奮闘しています。 http://www.sst-web.com/