Chinese | English

03-3510-1616 受付時間 9:00〜17:00(土日除く)

お問い合わせ 資料請求

 

  • HOME
  • コラム
  • 第8回 日本式IoTのすすめ ~IoTデータを使った新製品や新サービス創出のツボ~(前編)

コラム

日本式IoTのすすめ

第8回 日本式IoTのすすめ ~IoTデータを使った新製品や新サービス創出のツボ~(前編)

image_08_top1

※本記事は「IGPIものづくり戦略レポート」2017年秋号からの転載です。

データが取引されるようになる

2017年5月23日付の日経新聞に、オムロンがIoTで集まるデータの取引に向けた研究会を発足させ、来年春までに通信大手等5~6社とデータの取引所設立を目指す、との記事が掲載されました。工場設備や家電等の膨大なデータが売買されるようになれば、企業の枠を超えた研究開発への活用も可能になります。

これは、IoTで収集されるデータ自体が価値を持ち、他社データを活用して新製品や新サービスの価値向上に繋がる可能性があることを意味します。高速道路等のインフラにセンサーを設置する企業がIoTデータを販売できれば、投資コストを回収しやすくなります。また、新製品導入を計画している企業が、他社のテストデータを活用することで、新製品の上市を早めることができるかもしれません。そこで、IoTデータを使った新製品や新サービスを創出するためのアプローチとツボを2回に分けてご紹介します。

IoTデータを使った新製品・新サービス創出のアプローチ

ステップ1:どのような新製品・新サービスが考えられるか、コンセプトを定義
ステップ2:定義したコンセプトの事業性評価に基づき、ロードマップに展開

今回は、コンセプトを定義するステップ1について、方法論とその検討手順についてご説明します。

方法論:新製品・新サービス創出マトリックス

新製品や新サービスのコンセプト定義で大切な事は、創出しようとする新製品や新サービスが市場機会・顧客ニーズに合致することです。そのため、どんな顧客ニーズに対して、どんな機能・データが対応するかを理解する必要があります。これを解決するのが、図1のマトリックスです。このマトリックスでは、①縦軸に市場機会・顧客ニーズ、②横軸に機能・データを設定し、③縦軸と横軸の交点に両軸の関連性有無をプロットします。このプロット状況により、どんな顧客ニーズに対して、どんな機能・データが対応するかを理解でき、コンセプト定義に繋げることができます。皆様の中には、新製品検討の際、似たようなマトリックスを作って、検討された方がいるかもしれませんが、図1のマトリックスの特徴は、②の横軸に機能だけでなくデータも加え、新製品や新サービスにデータによる付加価値の視点を加えていることです。

また、このマトリックス作成で大切なのは、何年先の製品・サービスを想定するかです。それに合わせて市場機会・顧客ニーズや機能・データを想定する必要があります。

               図1:新製品・新サービス創出マトリックス(例:冷蔵庫)

図1:新製品・新サービス創出マトリックス(例:冷蔵庫)

①市場機会・顧客ニーズの設定

縦軸の市場機会・顧客ニーズをどれだけ洗い出せるかにより、新製品・新サービスの可能性も広がります。市場機会・顧客ニーズを設定するポイントは、PEST分析(注1)等で適切な軸を切りつつ、そこに出てくるニーズを出来る限り具体化することです。例えば冷蔵庫の顧客ニーズでは、単に青果のおいしさを維持したいだけでなく、果物毎に甘さを増すように保存したいと具体化することで、横軸の対応する機能やデータも具体化され、検討すべき製品やサービスがイメージしやすくなります。

また、他社に自社のデータを販売することを想定した場合、他社の市場機会・顧客ニーズも想定しなければなりません。他社が自社の業界に属さない場合、他業界についても同様に市場機会・顧客ニーズを洗い出す必要があります。

注1:PEST分析:マクロ環境分析をおこなうマーケティングフレームワークです。
PESTとは、「Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)」の4つの頭文字を取ったものです。

②機能・データの設定

横軸は機能・データの軸です。ここの機能・データは、自社だけでなく、想定する他社の機能・データも設定します。図2に新製品や新サービスに繋がるデータの例を示します。

大きく2種類あり、リアルタイム型とストック型に分類できます。リアルタイム型のデータとは、天候・事故等の変化状況を時間差がなく提供するサービスに資するデータです。そのため、リアルタイム型のデータは、常に通信されており、データの種類も限定的です。一方で、ストック型のデータは、ある地域や人・モノの特性を理解するサービスに資するデータです。これらの特性を理解するためには、長期間に渡り、複数種のデータを、大量に収集・蓄積する必要があります。これらストック型データのトレンドやデータ間の相関性を解析することで地域や人・モノの特性の理解に繋がります。


  図2:新製品や新サービスに繋がるデータの例図2:新製品や新サービスに繋がるデータの例

③新製品・新サービスコンセプトの定義

まず、縦軸の市場機会・顧客ニーズ毎に、対応する横軸の機能・データの交点にプロットします。その交点の状況から、自社として対応できるニーズを選別します。ここでのニーズは、コンセプトとしては細かすぎるため、ニーズについてある一定の基準で括る必要があります。括る基準としては、類似の結果になると想定されるニーズをグループ化するのも一案です。例えば、居眠りを防止したい、眠気が生じたら知らせて欲しい、集中力が落ちてきたら知らせて欲しいといったニーズは、類似の結果になると想定でき、一つのコンセプトとして括ります。これにより、新製品・新サービスのコンセプトがどんな顧客ニーズに対応するかが定義されます。コンセプトとして、他に定義しておくべき主な内容は、現状の問題点、実現方法(技術・データ概要)があげられます。

日本製造業活性化の糸口

日本はIoT技術の中核となるセンサーで世界シェアの約4割を占めます(注2)。冒頭の記事にある通り、これらセンサーから発せられるデータを有効に企業間で活用・連携できるインフラが整いつつあります。企業の枠を超えてIoTデータを活用・連携することで、今まで以上に新製品・新サービスが創出され、日本製造業全体が活性化することを期待します。

注2:出所「センサ技術の現状と課題」平成25年12月17日 国交省第2回社会インフラのモニタリング技術活用推進検討委員会資料 一般財団法人マイクロマシンセンタ 専務理事青柳桂一
 

※本記事は「IGPIものづくり戦略レポート」2017年秋号からの転載です。
最新の「IGPIものづくり戦略レポート」はこちらのサイトで公開されています。(株式会社経営共創基盤様のサイトへ移動します。)

第8回 日本式IoTのすすめ ~IoTデータを使った新製品や新サービス創出のツボ~(後編) へ続く

東洋ビジネスエンジニアリングのものづくりデジタライゼーション
宮坂 喜一 氏
宮坂 喜一 氏
株式会社経営共創基盤
ディレクター
ハイテクメーカーにて営業に従事後、会計系コンサルティングファームにて、主として製造業、卸売業、小売業の顧客に対して新会社設立、営業・IT戦略策定、各種業務改革及びそれに伴うERP、CRM等のシステム導入支援を実施。IGPI参画後は、中期経営計画策定、営業改革、原価見える化やライフサイクルコスト管理等の経営管理基盤構築、改革定着化支援等に従事。 中小企業診断士
https://www.igpi.co.jp/