第8回 日本式IoTのすすめ ~IoTデータを使った新製品や新サービス創出のツボ~(後編)
※本記事は「IGPIものづくり戦略レポート」2018年新春号からの転載です。
創出されたアイデアは放置されてないか?
昨今のIoT、AIブームに乗り、各企業では、マネジメント層自らが、各部門に対し、「IoT、AI技術を活用し、経営改善しうるアイデアを出し、XXまでに説明せよ」という指示を出される光景を目にするようになりました。
アイデア検討の指示自体は悪くなく、むしろ促進すべきことであります。また、指示を受けた各部門も必死で検討を行い、何かアイデアを持ってきます。しかしながら、各部門にてアイデアを創出し、マネジメント層へ報告した後、どのくらいの部門が実現化に向け本格的かつ継続的に行動できているでしょうか?現業を優先してしまい、放置されがちなケースが多いのではないでしょうか?
前号では、IoTで取得されるデータを活用し、如何に筋のよい新製品や新サービスのアイデア(コンセプト)を創出するかについて考えてきました。今号では、創出されたコンセプトを放置せず、確実に実行、実現していくためには、何をすべきかについてスポットを当てたいと思います。
コンセプト実現に向けた道筋を描ききる
創出したコンセプトを確実に実行するためには何をすればよいでしょうか?具体的には、以下の4つの問いに答えていくことが必要です。(図1)
●コンセプト実現に向け、どんな技術が必要で、どの程度経営資源が必要となるか?
●創出したコンセプトはビジネスとして成立するか?
●外部環境変化を考慮し、いつまでにコンセプトを実現させるべきか?
●どのような道筋でコンセプトを実現するか?
内外部環境を考慮した上で、「どんなコンセプトを」「どのような技術で」「いつまでに」「どの程度経営資源を用いて」実行するかを明確化するのです。このようなアプローチは、通常の商品企画でも実施されることでしょう。しかしながら、IoT、AI技術の活用時には、特有の考慮ポイントが発生します。以降では、この考慮ポイントに特に着目をしつつ、何をすべきか順に考えていきましょう。
図1:コンセプト実現のためのロードマップ策定ステップ
コンセプト実現に必要な技術と経営資源の明確化
検討はコンセプト実現に必要な要素技術の抽出から始まります。要素技術抽出は通常の商品企画時においても実施されますが、IoT、AI技術活用時は、これまで必要とされなかった技術が抽出されてきます。「これまで取得してこなかった情報を如何に取得するか(センシング技術)」「取得した情報をどのタイミングでどのように送受信し、蓄積するか」「蓄積した情報を解釈し、どのような判断を行うか(学習・解析技術)」。このような技術が、新規技術として抽出されてくるでしょう。
要素技術抽出後は、その技術を自力でキャッチアップするか、外部を活用するのか、内外製方針を決定します。その後、内外製方針に従いつつ、自社でどの程度、経営資源が必要となるのかを見積もります。通常の商品企画にはない特有の技術としては、学習・解析技術が挙げられます。この技術に対しては、学習データ収集、モデル学習、アルゴリズム開発、解析精度検証などの検討に要する経営資源を見積もります。この検討は多くの製造業において、馴染みが少ないでしょう。しかし、AI技術を活用する際は必須の検討であり、今後、組織が身に付けるべきケイパビリティになると考えられます。
コンセプトの事業性評価
本ステップは、通常の商品企画時と大きな違いはありません。コンセプト毎に「競合優位性」「収益性」「コア技術との親和性」などの観点で評価を行います。評価後、一定の評価基準を設け、事業性の低いコンセプトをふるいにかけます。また、評価結果に従い、コンセプトの実行優先度の検討のインプットとします。ただし、次のステップで説明するように外部環境の動向にも留意することが必要なため、このタイミングで実行の優先度が確定することはありません。
コンセプト実現タイミングの明確化
コンセプトをいつ実現するかは、自社都合のみで決められません。本ステップでは、ターゲットとなる市場動向を鑑み、どのタイミングでどんなコンセプトを市場に投入すべきかを見極めます。例えば、V2I(vehicle to infrastructure)通信を活用したコンセプトを実現するタイミングは、V2I通信技術の普及タイミング及び、その後のV2I通信技術を活用したサービス普及タイミングを考慮する必要があります。
タイミング見極めのためには、コンセプトに関連する市場、技術の動向を時系列に整理します。整理されたものは、市場ロードマップと呼ばれ、このロードマップに基づき、コンセプト実現の適切なタイミングを見極めるのです。
IoT、AI技術の進展は日進月歩です。現時点で技術的に出来ないことが、5年後には実現できるようになるかもしれません。あるいは5年後に技術確立しても、その技術を活用したサービス普及は10年後かもしれません。市場と技術動向を整理した市場ロードマップを活用し、コンセプト実現タイミングを外部環境動向と同調させることが重要なのです。
コンセプト実現の道筋の明確化
前段の3ステップの検討で、「どんなコンセプトを」「どのような技術で」「いつまでに」「どの程度経営資源を用いて」実行するかが明らかになりました。最終ステップは、これまでのアウトプットを、市場ロードマップ⇔コンセプト実現(新製品、新サービス実現)タイミング⇔開発計画と繋げます。この繋げた姿がコンセプト実現のためのロードマップとなるのです。(図2)
コンセプト実現のための道筋は完成しました。活動のための経営資源を確保すれば、あとは実行あるのみです。ロードマップをPlanとし、活動が放置されないよう、PDCAプロセスを実行していきます。
図2:コンセプト実現のロードマップイメージ
如何に自社の商品企画プロセスに「勘所」を浸透させるか?
今回は前後編にわたり、IoTデータを用いて新製品や新サービスを創出、実現していくための勘所について考えてきました。ここまでご説明してきた通り、そのアプローチは、通常の商品企画と大きく変わりません。重要なことは、どこが特有なポイントとなるかを認識し、自社の商品企画プロセスの中にそのポイントを追加、浸透させていくことです。
IoT、AI技術を用いた、新製品、新サービスは今後、多くの企業の手によって、世の中に投入され、競争はますます激化していくでしょう。そのような中、自社の商品企画プロセスの中に、IoT、AIの勘所を取り入れ、浸透させていけるかが、この競争に打ち勝つ必要条件になると考えております。
※本記事は「IGPIものづくり戦略レポート」2018年新春号からの転載です。
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