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コラム

日本式IoTのすすめ

第9回 日本式IoTのすすめ ~日本製造業の組織的疾患~

 

※本記事は「IGPIものづくり戦略レポート」2018年春号からの転載です。

ゼロベースで作れるか?

質間です。貴社の設計者を集めて、今と同じ性能の製品をゼロから設計して作れますか?設計出来るということは即ち、各性能間の関係性やその検討手順が明確である、ということです。如何でしょう?体感ではありますが、大企業でもゼロベースで製品を設計出来るところは減ってきています。昨今、新聞での報道が多い大企業の品質問題。各企業において固有の原因があるとは思いますが、共通項もあると思います。それは今日、なぜこの設計はこうなっているのか、あるいは、なぜこのエ法はこうなっているのかを理解している人がいないのです。

「実はなんでこういう設計になっているのか、理由知らないんですよね・・・」開発や設計、量産技術の現場で聞く言葉です。これでは品質検査において、不良事象と根本原因の因果関係を紐解き、評価・検証することは出来ません。これは"匠” や"すり合わせ”という言葉に象徴される、これまでの日本製造業の仕事の仕方が起因しています。良く聞くこれらの"美辞は、言い換えれば属人化、あるいは行き当たりばったり、と言えるでしょう。

アーキテクチャとコネクティビティ

IGPIものづくり戦略レポート2017年春号にて、製品のアーキテクチャ(設計思想)を戦略的に整理し、属人的な暗黙知を回避、標準化やモジュール化を推進することが、IoTを活用して新しい付加価値を生み出すために重要であることを述べました。設計のアーキテクチャのみならず、生産のアーキテクチャも整理し、それを繋げることで競争優位性を発揮するのです。しかし、そのような本質的な取り組みをされてない企業も多くあります。

設計や生産におけるメカニズムが把握できていなければ、最適化を検討する際に設計や生産現場のデータは何を取得するべきか分かりません。問題が発生し、関連がありそうな部分を都度データ取得することとなるでしょう。そして、各データ間の関連性、即ち各設計要素と生産要素の関連性が無いままに、各データは独立して存在します。実際、多くの企業でデータ不足、ということは無く、何のデータがどこにあるか整理されず、更にはそれらの連携や整合、即ちコネクテイビティが無い、という事象になっているはずです。

組織的背景

では、アーキテクチャとデータコネクテイビティを考えれば良い訳でもありません。これには組織的な問題が内在しています。

今日、ハードウェア(ハード)、エレクトロニクス(エレキ)、ソフトウェア(ソフト)という領域が融合して製品の価値を創っています。かつてはハードが主体でしたが、今後はソフト主体であることはご承知の通りです。また、ものづくりやビジネス自体をバーチャルで進めるモデルベース開発などの「デジタライゼーション」が普及しつつあります。

これら融合あるいはデジタライゼーションに対し、多くの企業でベテラン技術者は、ハード出身です。ソフトやデジタルのことは良く分かりません。そして、ソフト技術者は相対的に年齢性が若い傾向があり、発言権も強くないケースがあるでしょう。デジタライゼーションを見据えてソフト技術者を戦略的に採用・育成するということも、元ハードウェア技術者の管理職には思いつかず、むしろハードを強くしようというバイアスもあるかも知れません。

加えて、このハード、エレキ、ソフトを横断で製品全体を構想出来る能力、いわばアーキテクト能力を持つ人材がいません。するとどうなるでしょう・・・「ハードは共通化して、ソフトのこの制御で差別化して」というような製品としての競争力を考えず、ベテラン技術者の声の大きさで領域間のバランスが決まってしまいます。これでは変化に対応出来ません。

組織のストラクチャーで対応

この組織上の間題、どうするのか?複数分野の知見を融合する組織構成を構築するしかありません。例えば工場IoTであれば、製造部門、設計部門、PLCなどの設備制御デバイスを担当する部門などのクロスファンクションの部門とマネジャーを"恒久的"に創るべきです。融合して価値を創出するのがその組織のミッション(図1)であり、既存の機能部門から独立した立ち位置にする事が肝要です。特定の機能部門所属のままでは、その機能部門の利害を代表してしまいます。

例えば、米機能ガラス大手コーニングでは、"Smart Manufacturing"マネジャーを設置しています。このマネジャーが、事業部門、製造部門、SCM部門を横串に連携するイメージです。そして、エネルギー使用効率化やデジタライゼーション推進、品質向上といったゴールに向かって活動を推進することが組織として運営されています。


                図1:クロスファンクション部門のミッション

図1:クロスファンクション部門のミッション

 

新しい組織スキルの構築

このような取り組みの意義は、純粋に生産性向上や、新しい製品価値を創出することだけではありません。複数領域を横断して①各要素を整合させ、②価値創造に向けてインテグレーションする能力を身に着けるという意味です。この①②の欠落が、冒頭の「ゼロから設計出来無い」事象や品質問題の背景にあります。今後、製品はより複雑になり、そしてデジタライゼーションは普通の世界となります。このようなケイパビリティは早期に組織内に構築するべきと考えます。

マネジメントのリーダーシップ

では、このケイパビリティを構築するための障害は何でしょう?我々が見る限り、十分なリソースを充てないマネジメントです。複数領域をインテグレーションする構想力と調整力を持つ人間は、恐らく既存事業においてもエースです。短期的な事業成呆を考えると、ただでさえリソースがひっ迫している既存事業から“引き算”をするのは難しい事だと思います。

しかし、このIoT、デジタライゼーションといったトレンドは一過性のものではありません。繰り返しになりますが10年後は"普通"の事になっています。その時、今と同じように属人的に、行き当たりばったりで製品を開発するのか、自社に領域を横断した構想力や企画・開発業務の運用力といったケイパビリティを持つのか・・・答えは明白です。戦略的な引き算をして頂きたいと思います。

                      図2:組織的疾患

 

※本記事は「IGPIものづくり戦略レポート」2018春号からの転載です。
最新の「IGPIものづくり戦略レポート」はこちらのサイトで公開されています。(株式会社経営共創基盤様のサイトへ移動します。)

東洋ビジネスエンジニアリングのものづくりデジタライゼーション
沼田 俊介 氏
沼田 俊介 氏
株式会社経営共創基盤
パートナー 取締役マネージングディレクター ものづくり戦略カンパニー長

外資系コンサルティングファーム及び国内独立系ファームにて、大手半導体、ガラスメーカー、化学メーカー等グローバル製造業の業務改革構想立案と実行をサポート。事業戦略やIT戦略の立案から業務標準化、プロセス改善等の実行までのハンズオン支援を実施。また多くの製造業にて全社的なERP導入を指揮。IGPI参画後は各種製造業の短期的な収益性改善、ものづくり改革による中長期的な競争力強化、また海外展開における戦略策定とその実行支援を統括。 ケースウェスタンリザーブ大学経営学修士(MBA)
https://www.igpi.co.jp/