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コラム

生産海外移管戦略編

第3回 『スタッフがつくる間違いだらけのデータ』

生産海外移管戦略編

間違った情報により、間違った経営判断をしてしまった結果、残った国内工場が思いもかけなかったほどの「退却に継ぐ退却」を余儀なくされるという現実。このような事態を引き起こす根本的な原因は、「既存の製品原価を信じ込む」ことから生じています。上司から、X製品海外移管による原価低減効果と利益増分を示すよう指示されたスタッフは、まずデータを探します。そのときのデータは既存の「管理用の資料」といわれているもので、毎月の損益管理のもとになっているものです。また、コンピュータに登録されている「オーソライズされた(社内公認の)データ」です。このデータはオーソライズされているがゆえに、ここから導き出された結論は信頼性が高いと思われています。
もし、「元データの前提条件が、今回の分析には相容れません」と言えば、なぜそうなのかの説明が必要になり、さらにそれでは正しいものは何か、毎月の報告は間違ったデータなのかを問い詰められるはめになります。このような選択肢をとるスタッフはいませんし、もっと言えば、現場感覚のないスタッフには疑問さえ湧いてくることがありません。
スタッフの行う報告のベースは、製品別損益または製品別粗利データです。そこから材料費等の変動費や人件費がいくらになるか計算します。たとえば、人件費が10分の1になれば、製品原価の人件費を10分の1に設定します。さらに間接費の配賦額のうち人件費部分を10分の1にします。このように「現在の製品別原価情報」をもとに改良を加えていきます。生産移管する製品についてのみ計算するわけですから、そんなに大きな手間ではありません。
ここでの問題は「本当に正しい製品別原価がわかっているか否か」です。
既存のデータから適当な配賦計算をすることになるのですが、問題はその仕方です。

負担能力主義の原価計算が間違いを起こす

配賦計算での最も大きな間違いは、間接費を負担能力に応じて配賦することです。より大きな生産量の製品にはより大きい間接費を負担してもらう方法です。こうすると原価が平均化し、実際は大きな赤字である多品種少量品の製品もすれすれで利益を出していることになり、「まるく収まる」ことになります。
このような考えは製品別原価だけではありません。部門別損益でも本社費を売上高の大きさで配賦する企業は本当に多いのが現実です。一所懸命頑張って売上を上げれば上げるほど本社費の配賦額が大きくなり、一方、売上が下がった部門は本社費の配賦額が少なくなるので、思ったより利益の減少は少なくて済むので問題の所在が隠されます。うまくいかなかった部門も、それほど批判されることはありません。この考えはあらゆる業績評価の場面にはびこって、経営判断を誤らせている大きな要因となっています。
製品原価をこのような「負担能力主義」で計算することにより、移管する製品は儲かり、残る製品もあまり問題は生じないという報告書になり、スタッフは大仕事を簡単に片付けることができます。しかし、すでにおわかりのように、スタッフの仕事の後には七転八倒する現場という現実があります。

ものづくり改革に役立たない原価計算が、間接人員を増やす

多くの企業の実態をみると、ほとんどの原価計算が、ものづくり改善の役に立ってはいないと感じます。たとえば現場で今まで1時間かかっていたA製品の段取時間を10分に短縮しても、原価レポートにおいてはA製品の原価はまったく低減されていません。現場で改善したことが反映されない原価計算は「改善には役に立たない」ことの証左です。
その一方で、原価計算は経理部門とか経営者に報告する企画部門などでは「役に立って」います。
なぜこのような事態になってしまうのでしょうか。現在の原価管理の仕組みの原型はいつできたものか、考えてみてください。会社ができてまだ大きくないときに、その当時の管理担当者がその時代の生産状況または経営判断に役立つように整備したものではないでしょうか。
しかしながら、その後、会社の成長とともに、例えば以下のように状況は大きく変貌しています。

    • 少しずつ部門が増え、勘定科目が増えて複雑になったにもかかわらず、原価計算の基本的な考え方、計算の構造は変わっていない。
    • 製品が増え、データはコンピュータから出力されるようになり、「間違いない」威厳のあるものになってきた。
    • しかし、ものづくりの方法は大きく変わってきている。以前は人海戦術で作っていた製品は自動化された設備で生産され、現場を走り回っていた工程マンはコンピュータとともに事務所の奥深くにおさまっている。現場よりも事務所で働く人のほうが多い工場になっている。

つまり、図1に示すように、数十年前には労働集約的な生産活動であったために間接人員よりも直接人員のほうが多く、直接費のウェイトが大きかったのですが、今では工場のFA化、自動化等の技術革新により、間接人員のほうがはるかに多くなった結果、間接費のウェイトが大きくなり、「配賦することによる現場の実態からの乖離」が大きくなっています。しかし、原価計算のやり方は従来どおり変わらないので、数字と実態とがどんどん乖離しているのです。つまり、昔ながらの原価計算方式が、自動化しグローバル化した製造工場の原価をはじき出しているといえます。

図1:間接費は隠された工場

<図1:間接費は隠された工場>

製品コストには間接人員の費用が重くのしかかっているのに、間接費を正しく把握し、適切に製品に配賦していません。現場では、「間接費の配賦が重過ぎる。直接費のコスト削減はすでに限界に来ている」と考えています。さらに、製品グループをA、B、Cと分けて考えると、直感的にはA、Bにはほとんど間接部門の時間はかからず、ほとんどがCグループ品の管理にかかっているのに、そのことが製品原価には反映されていません。

ものづくり改革に役立たない原価計算が、一方では間接費の管理もできず、現在のコスト構造を正しく表現しない状況に陥っているのです。それによって、Cグループ品の問題を実際よりも軽いものにし、改善を遅らせています。間接費は「隠された工場」としてますます増大しているのです。

製造間接費の配賦基準を見直せ

製造間接費はもともと特定の製品や製造指図に完全に正確に紐付けることは難しく、どこまでいっても何らかの基準を設定して配賦するものであるため、何らかの想定をおかざるを得ません。しかし、多品種少量化が進む現状や、製造原価全体に占める製造間接費の割合がどんどん増加してきている状況においては、製造間接費の増加要因が、製品別の売上高の増大や直接材料費であるという想定を置くこと自体に無理があるのが現実です。従って、原価の発生形態に近い製造間接費の配賦基準を再検討することが必要となってきます。
本コラムのテーマである海外生産拠点戦略の検討の面から製造間接費の配賦の問題を捉えても同様です。様々な生産移管パターンをとった際に、製品別の原価・採算がどうなるか、ということと、拠点別の損益がどうなるか、ということが原価計算の結果として提供される必要があります。特に製品別の原価・採算については、移管の検討単位が製品単位であり、その単位で原価の実態をできるだけ正確に算出することが求められてくるため、製造間接費の配賦を負担能力主義的に行った原価計算の結果を意思決定に用いることは、多くのケースにおいて間違いであると考えるべきです。
では、次回のコラムでは工場が抱えるもうひとつの大きな問題についてお話したいと思います。

第4回コラム「多種少量品(Cグループ品)の増大がコスト構造をかえる」に続く

漫画_世界で闘う準備はあるか
杉原 健史 氏
杉原 健史 氏
株式会社アットストリーム マネジャー
(株)第一勧業銀行、キーエンス、アーサーアンダーセンビジネスコンサルティング等を経て、現在に至る。KPIマネジメントによる経営改革の推進、各種SCM改革の企画・立案・実行支援などの各種プロジェクトに従事。主な著書に『SCP入門』(共著)工業調査会、『e生産革命』(共著)東洋経済新報社。
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※(株)アットストリームの杉原氏に、直接メールで連絡を取ることができます。
渡邉 亘 氏
渡邉 亘 氏
株式会社アットストリーム マネジャー
TIS株式会社を経て、現在に至る。製造業における業務改革の推進、生産ならびに収益管理システム構築の企画・立案・実行支援、情報システム運営の構造改革立案・実行支援など、各種プロジェクトに従事。
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