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コラム

生産海外移管戦略編

第5回 『製品損益で考える/工場損益で考える』

生産海外移管戦略編

移管後に残った製品の原価計算は?

今回のコラムでは、生産移管を検討するにあたって、製品損益だけでなく、工場損益にも着目する必要性があることについてお話したいと思います。
製品XをA工場で作れば1000円、B工場で作れば800円と仮定します。営業のお客さまへの売値は900円です。A工場で作れば100円損をし、B工場で作れば100円の利益になります。それでは、製品XをすべてB工場に移せば本当に儲かるのでしょうか。
ここで考えなければならないことは、原価の中身です。この原価には工場で掛かるすべての費用が入っていると仮定します。材料費、外注加工費、工場の労務費、生産に使う油や軍手などの副資材費のほかに、工場長の給与や生産管理、工務、工場経理など管理部門のすべての費用、そして工場にある建物や機械の償却費、リース代などが含まれます。A工場はこれらの費用の総額が大きく、結果として製品Xを作るのに、1分間当たりの負担金は6000円、一方、B工場は4800円であるとします。これをチャージといいます。1分間当たりのチャージが、それぞれ6000円、4800円ということです。「原価=チャージ×生産時間」ですから、製品Xの生産時間10秒だとすると、A工場では1000円の原価、B工場では800円になります。 次に、製品XをA工場からB工場に移管すると仮定します。図1のように、確かにB工場では800円で生産することができます。


図1:製品損益をみるとB工場で作るほうが儲かるという事になるが・・・<図1:製品損益をみるとB工場で作るほうが儲かるという事になるが・・・>

 


製品損益だけを見た場合、それで問題ないではないかということになりますが、そう簡単ではありません。製品Xを出した後のA工場はどうなるのでしょうか? 製品X以外の製品の原価は変わらないのでしょうか。量産品である製品Xが負担していた間接費はどのように処理されるのでしょうか。

工場の損益を考える

A工場において、量産品である製品Xが負担していた間接費は、A工場に残った製品で「適当な配賦率で負担する」ことになります。つまり、従来と同じ理屈で原価計算をすれば、残った製品のうち負担能力の大きい製品から順により多くの追加の負担をすることになってしまいます。図2のように、今まで1000円でできていた中量品である製品Yは、たとえば1200円になります。少量品の製品Zは従来の原価が2000円のところが、たとえば2400円になります。


図2:A工場の損益は思いもかけない苦境に陥る<図2:A工場の損益は思いもかけない苦境に陥る>


このように製品Xが移管されたことにより「A工場のチャージが高くなり(図2の例では、チャージが6000円/分から7200円/分に、なった)、A工場で作っているすべての製品の原価が高くなる」のです。つまり製品Xを移管することによりA工場の原価構造が大きく変わるのです。
しかし、実際に移管対象製品の製品Xの原価計算をしたスタッフが、A工場に残るすべての製品の原価が変わることを報告することはありません。製品Xを移管することによる製品Xの原価低減額のみが報告され、企業全体あるいは工場でどのようなことが起こるかについての判断材料は示されずに移管の意思決定が行われてしまうのです。
このように、生産移管に関する問題は、製品原価の問題と同時に工場損益の変化の問題に対応しなければなりません。残った製品の原価を維持しようとすれば、直接費のみでなく、製品Xが負担していた間接費をすべて削減する必要があります。しかし、このようなことは現実的には困難です。したがって、負担能力主義で間接費を負担しているから、製品Xがなくなったことにより残った製品の負担率が変わり、結果として他の製品の原価も変わることになるのです。

拠点戦略の見直しはチャージを変化させる

生産拠点戦略検討の結果、工場のコンセプトや全社における工場の位置づけが見直される場合があります。工場コンセプトの見直しにはいろいろなケースが想定されますが、例えば、その工場での生産ロットを見直し、大量品・中量品・少量品のうちどのカテゴリーを中心に生産するかを見直す、どの顧客向けの製品を中心に生産するかを見直す、ある特定の生産技術を必要とする製品に生産品目を絞り込む、などのケースが考えられます。これらの見直しはすなわち生産品目の変更であり、生産品目の変更は指示ロットの大きさであったり、準備・後始末の工数や難易度の違いなどにつながります。したがって、チャージの前提である操業率や稼働率の想定も変化するため、計算されるチャージが変化するのです。もちろん、良品率の違いも同様にチャージを変化させることになります。
そしてチャージの変化は原価構造の変化につながり、結果的に工場損益に大きなインパクトを与えることになるのです。

工場別損益で生産拠点戦略の正しさを確認する

製品別の利益の現状と生産拠点を変更した場合の製品別利益のシミュレーションを行うことにより、製品ごとの製造拠点の検討は可能です。しかし、最終的には、それらの積み上げとして、各拠点がどのような損益状況になるか、さらにはそれぞれの生産戦略スキームごとに会社全体の損益状況がどのようになるか、ということが把握されなければなりません。各生産拠点にどのようなカテゴリーの製品を移管するか、また、どの程度の生産量を各生産拠点に配分するか、ということにより、生産拠点毎の性格と位置づけがかわり、コスト構造が変わり、稼働率や操業率のベースが変更されるのです。また生産拠点の性格や位置づけの変化は、拠点戦略見直し後の業務改善のポイントや必要な改革ポイントが何であるかということにも影響するのです。
では、次回のコラムでは、製品損益、顧客損益、工場損益の3点で考えることの必要性についてお話したいと思います。

第6回コラム「拠点戦略を考える」に続く

漫画_世界で闘う準備はあるか
杉原 健史 氏
杉原 健史 氏
株式会社アットストリーム マネジャー
(株)第一勧業銀行、キーエンス、アーサーアンダーセンビジネスコンサルティング等を経て、現在に至る。KPIマネジメントによる経営改革の推進、各種SCM改革の企画・立案・実行支援などの各種プロジェクトに従事。主な著書に『SCP入門』(共著)工業調査会、『e生産革命』(共著)東洋経済新報社。
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※(株)アットストリームの杉原氏に、直接メールで連絡を取ることができます。
渡邉 亘 氏
渡邉 亘 氏
株式会社アットストリーム マネジャー
TIS株式会社を経て、現在に至る。製造業における業務改革の推進、生産ならびに収益管理システム構築の企画・立案・実行支援、情報システム運営の構造改革立案・実行支援など、各種プロジェクトに従事。
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※(株)アットストリームの渡邉氏に、直接メールで連絡を取ることができます。