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コラム

生産海外移管戦略編

第6回 『拠点戦略を考える』

生産海外移管戦略編生産移管戦略を考えるとき、以下の三つの視点から検討することが重要です。

  • 製品別損益
  • 顧客別損益
  • 工場別損益

製品別損益:最も重要な基礎データ

まず、基本中の基本となるのは製品別の利益です。製造業である限り、製品別損益が確保されているか否かが最重要の検討項目です。製品の売価がいくらで見込めるから原価をどれほどにしなければならないか、儲けるためには原価を下げるか売値を上げるか、具体的な対策の実行が必要です。
生産拠点戦略の検討は、最終的にはどの製品をどの生産拠点で製造するか、です。目的は、トータルの原価を下げることです。トータルとは製品製造原価のみでなく、物流費、在庫保管費、移動による品質の劣化費用、さらにはリードタイムが長くなる場合の在庫費用の増大を考慮する必要があります。現状の製品原価がいくらで、それを海外工場に移管するといくらになるかを考えます。当然ながら、戦略検討の検討単位になるのは一つ一つの「製品」です。実務的には生産上の特徴やロットの大きさなどで一定の製品群単位にまとめられて拠点戦略のスキームが検討されることもありますが、その場合においてもあくまでも最小単位は「製品」です。したがって、その最小単位の製品についての損益・採算に関する情報は最も基礎的な情報となります。
拠点戦略の検討の面からは、対象製品が現在生産されている工場における採算だけでなく、いずれかのほかの生産拠点において生産した場合における利益・採算情報もシミュレーションされることが必要です。その意味からも、原価計算の基準としてのチャージ計算の方法を生産拠点間で統一しておくことが重要となります。生産拠点を変えると直接費の部分は仮に同じであっても、少なくとも間接費としてのチャージの拠点の性格や位置づけが変わることによって変化するのです。
製品別の利益と採算がしっかりと把握されることで、目的である会社全体の競争力強化に対してとるべき手段である「どこで作るか」という拠点政策と「どのように作るか」という原価改善活動の検討と目標設定が可能となるのです。

顧客別損益:儲けさせてくれない顧客は、顧客とはいえない

次は顧客別損益です。多くの会社が顧客別に儲かっているか否かを真剣に議論していないことには本当に驚かされます。儲けは売値から原価を引いたものですから原価だけでは意味がありません。また、いくら製品一個当たりの粗利額が大きくても、数量が少なければ粗利額は大きくなりません。この製品別の損益を顧客ごとに集計したものが顧客別粗利です。ここから営業費用等を引けば顧客別の損益になります。生産移管に際しても、顧客別の粗利で損益を考える必要があります。
顧客別に考えるのには理由があります。製品と数量を顧客単位でとって見ると当然のことながら、生産量の多い製品と少量品が混在しています。つまり、顧客単位でもAグループ製品、Bグループ製品、Cグループ製品があります。これを製品別損益でみると、儲かっている製品もあれば、赤字の製品もあります。
さて、いくつかの製品を中国に移管することによって損益の出かたが変わります。顧客に「製品Xはこのままでは儲かりません。値段を上げてください」あるいは「中国で生産して赤字幅を少なくします」と申し出るためにも、顧客ごとの対応戦略が必要となります。
移管プロジェクトの成果の獲得にはこのように顧客への対応戦略が重要になってきます。いくら取引量の多い顧客でも、儲けさせてくれない顧客は顧客とはいえません。儲けさせてくれる顧客のみが長続きします。継続取引のために顧客対応の戦略が必要です。そのもとになるのが顧客別損益なのです。
このように製品別の利益を顧客軸でくくりなおすことにより、製品別利益だけでは明らかにならない経営上の重要な事実が明らかになってきます。そして製品別利益と顧客別利益の情報の存在が工場と営業部門の討議を結び付けていきます。工場は生産活動ならびに原価改善活動が製品別利益だけでなく顧客別の利益の改善にどう影響するかを認識することが出来ます。また営業部門は受注単価や受注内容(受注ロット・生産ロット)の差異が製品別の採算に影響をもたらし、かつ自らがマネジメントすべき指標である顧客別利益にも影響することを実感できるのです。

工場別損益:工場間比較は、各工場のミッションを明らかにする

最後に工場別損益です。移管する製品が儲かるか否かの計算はそんなに難しくありません。問題は、前回のコラムで解説したように、製品Xがなくなった後の工場の姿が変わるということです。原価面でチャージが変わるから、とたんに残りの関連する工程を通る製品の原価がすべて変わります。製品別原価が変わり、顧客別損益が変わり、工場別損益も変わります。移管する製品のことだけでなく、それによって変わるものの管理が重要となります。
国内で工場を展開し、さらに海外に工場を展開します。時間とともに工場の姿が変わってきます。中国の工場でも当初は大量生産品であった製品がいつの間にか少量品になってくるのです。当初は明確であった工場間の役割の違いも、実際に調べてみると明確な違いはなくなってきます。
そこで、当社では工場間の違いを明確にし、それぞれの工場が特徴ある強みを持ち、それぞれが利益を上げることを目的に、図1のように工場間で統一した指標を設定し、同時比較するようクライアント先で実践しています。このような仕組みを作ることによって、

  1. たとえば稼働率のような重要な情報の定義が統一される。
  2. 統一した定義のもとに工場間比較が容易にできる。
  3. 各工場長ならびに企画部門が他工場を見ることにより、お互いをベンチマーク先として改善活動に活かす。
  4. 生産移管のように工場間に利害の生じる場合でも、それぞれの特徴と強み弱みを理解した上で相互協力できる。
  5. 時とともに変わる工場の姿が明らかになり、ものづくり改革のタイミングを逃さない。

など、多くの効果があります。
工場別損益には基本となる各工場のミッションが大事ですが、ミッションを言葉で表現するだけでは儲けることはできません。各工場のミッションを実現する明確な業績管理指標を設定し、儲ける体質を作ることが重要になってきます。


図1:工場スコアカードによる工場間ベンチマーク<図1:工場スコアカードによる工場間ベンチマーク>


以上の3つの利益管理・採算管理が、生産拠点戦略の検討の正しさと実行後の目標設定と実績管理の基礎となるのです。
では、次回は生産移管戦略の進め方についていくつかのステップごとに具体的にお話したいと思います。

第7回コラム「生産移管戦略の進め方 ~前編~」に続く

漫画_世界で闘う準備はあるか
杉原 健史 氏
杉原 健史 氏
株式会社アットストリーム マネジャー
(株)第一勧業銀行、キーエンス、アーサーアンダーセンビジネスコンサルティング等を経て、現在に至る。KPIマネジメントによる経営改革の推進、各種SCM改革の企画・立案・実行支援などの各種プロジェクトに従事。主な著書に『SCP入門』(共著)工業調査会、『e生産革命』(共著)東洋経済新報社。
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※(株)アットストリームの杉原氏に、直接メールで連絡を取ることができます。
渡邉 亘 氏
渡邉 亘 氏
株式会社アットストリーム マネジャー
TIS株式会社を経て、現在に至る。製造業における業務改革の推進、生産ならびに収益管理システム構築の企画・立案・実行支援、情報システム運営の構造改革立案・実行支援など、各種プロジェクトに従事。
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※(株)アットストリームの渡邉氏に、直接メールで連絡を取ることができます。