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海外進出企業とタックス・ヘイブン対策税制について【連載第1回】タックス・ヘイブン対策税制の概要

海外進出企業とタックス・ヘイブン対策税制について【連載第1回】タックス・ヘイブン対策税制の概要 

はじめに

【事 件】 A社(日本の内国法人)は、シンガポールに子会社を有し、そこを拠点にASEAN諸国にラーメン店を展開しており業績は順調である。シンガポールではオフィスも賃借し現地居住者も雇用し、実際にラーメン店展開の拠点となっており、いわゆるペーパー・カンパニーでは全くない。しかし、このたび当社A社は日本の国税当局から、シンガポール法人は親会社の主導下で運営されており、タックス・ヘイブン対策税制上の「管理支配基準」を満たさないものと認定され、多額の追徴課税を受けた。
<法令略称> 措法:租税特別措置法、措令:租税特別措置法施行令、措通:租税特別措置法関係通達

日本経済の閉塞感のせいでしょうか、海外(特に東南アジア)に進出する企業が増えています。従来は日本である程度の実績を残した中堅規模以上の企業が、さらに業容を拡大するための進出というケースが多かったのですが、ここ5~6年はその規模感が大きく縮小し、かつ、企業の設立経過年数も1ケタといった場合も多く見られます。弊社においてもここ最近、進出に係る現地情報の把握及び税務対策といった相談が急増しています。 このように海外に進出する際に、日本に支配会社(50%以上の株式を保有)置き、現地では被支配会社を設立して事業展開を行う方式がよく採られます。この時に日本法人において注意を払わなければならない税制として、タックス・ヘイブン対策税制と移転価格税制があります。これらに配慮しなかったばかりに後日、国税当局から多額の追徴課税を受けることがあります。
当コラムでは10回にわたり、タックス・ヘイブン対策税制について解説を行いたいと思います。特に、2014年5月に東京高裁から判決(納税者勝訴)が出て注目された「管理支配基準」の考え方について、3つの裁判例に焦点を当て、どの企業も直面するであろう問題に迫りたいと思います。

図表1

タックス・ヘイブン対策税制とは

1 内容

タックス・ヘイブン(TAX HAVEN)対策税制とは、日本の内国法人又は居住者が外国の軽課税国に本店又は主たる事務所を有する外国子会社等を有するときに、その外国子会社等が行う現地での活動に経済的合理性を有しない場合に、外国子会社等の所得のうち持分に相当する金額を日本の親会社等の所得に合算して、日本の税率で課税し日本の親会社等に納税させる制度です。つまり外国子会社等の所得のうち、持分に相当する金額を親会社等の所得とみなすわけです。この意味でこの税制を「外国子会社合算税制」ともいいます(以下、合算税制といいます)。なお、合算税制は法人のみではなく個人も対象とされます(個人の場合は雑所得として課税)。以下、法人を前提として記述をします(個人の場合も内容は変わりません)。

<タックス・ヘイブンの国、地域>
TAX HAVENの「HAVEN」とは回避地、回避港という意味で、タックス・ヘイブンとは一般に課税がない、ないしは、課税がほとんどない国や地域を指します。OECDの租税委員会が2000年に認定したタックス・ヘイブンの国又は地域の数は35にのぼります。タックス・ヘイブンとしてよく名前が出る国・地域としては、次のようなものがあります。
<カリブ海地域>
バミューダ、ケイマン諸島、バハマ、パナマ、英領ヴァージン諸島など
<欧州>
リヒテンシュタイン、スイス、マン島、モナコなど
<アフリカ>
リベリア、モーリシャスなど
<アジア>
シンガポール、香港、ブルネイなど
<中近東>
バーレーンなど
<太平洋>
トンガ、バヌアツ、クック諸島など

2 課税の対象

合算税制の対象となるか否かの判断は、次の1~3の3段階のステップで行います。

(1) 基本三要件
次の3つのすべてを満たすこと。
① 10%以上要件  ② 50%超要件  ③ 20%以下要件

① 10%以上要件(措法66の6①)
子会社等の所得が合算される対象の法人となるか否を決定する要件です。内国法人が外国子会社等の発行済株式又は出資総額の10%以上を、直接又は間接に保有していることが必要です。

② 50%超要件(措法66の6②)
日本の居住者及び内国法人並びにこれらの特殊関係非居住者が外国法人の発行済株式総数又は出資総額の50%超を直接又は間接に保有していること。これを「外国関係会社」といいます。
(①と②により自らが外国法人の持分を50%超支配しなくても(他者を含めて支配していれば)、合算税制が適用される場合があります。)

③ 20%以下要件(措法66の6①、措令39の14①)
外国関係会社が負う実質税負担率(表面税率ではないことに留意)が所得の20%以下であること。
(②と③を満たす外国法人を、「特定外国子会社等」といいます(措法66の6①)。これが合算税制が適用される外国法人です。)

(2) 適用除外四要件
(1)の基本三要件に該当した場合でも、以下の四要件をすべて満たせば、特定外国子会社等の現地活動に経済的合理性があるものとして、合算税制の対象から除外されます(措法66の6③)。
① 事業基準  ② 50%実体基準  ③ 管理支配基準  ④ 非関連者基準又は所在地国基準

① 事業基準
特定外国子会社等の主たる事業が株式等若しくは債券の保有などではないこと。

② 実体基準
特定外国子会社等が事務所、店舗、工場その他の固定的施設を有すること。
(①②により、いわゆるペーパー・カンパニーでないことが必要です。)

③ 管理支配基準
特定外国子会社等が自ら管理、支配、運営を行っていること。つまり親会社等から独立して会社を経営していること。これが次回以降の検討テーマとなります。

④非関連者基準と所在地国基準
グループ内だけで取引が行われないこと、ないしは所在地国の経済に寄与することが必要です。

(3) 資産性所得の例外
(2)の適用除外要件を満たせば、基本的に合算税制の適用はありませんが、特定外国子会社等の所得のうちに、剰余金の配当、株式の譲渡益、債券の利子、特許権の使用量等の資産性所得があると、その資産性所得は合算課税の対象となります(措法66の6④))。この規定は平成22年度税制改正で設けられました。

合算税制の対象につき、以上説明したことを図に示しますと次のとおりです。
図表2

次回からは「管理支配基準」につき実際の裁判例を検討します。

第2回コラム『管理支配基準の判例について(安宅木材事件1/3)』に続く

漫画_世界で闘う準備はあるか
高田 正昭 氏
高田 正昭 氏
公認会計士・税理士 (株)グローバル・パートナーズ・コンサルティング取締役
税理士法人グローバル・パートナーズ 代表社員
帝京大学経済学部教授
上場製造業、監査法人等を経て現在に至る。主に法人を相手に税務業務に従事している。特に最近はクロスボーダー取引及び組織再編成税制に係る税務相談が増加している。 株式会社グローバル・パートナーズ・コンサルティング http://www.g-pc.co.jp/