Chinese | English

03-3510-1616 受付時間 9:00〜17:00(土日除く)

お問い合わせ 資料請求

 

  • HOME
  • コラム
  • 海外進出企業とタックス・ヘイブン対策税制について【連載第4回】管理支配基準の判例について(安宅木材事件3/3)

コラム

グローバル

海外進出企業とタックス・ヘイブン対策税制について【連載第4回】管理支配基準の判例について(安宅木材事件3/3)

海外進出企業とタックス・ヘイブン対策税制について【連載第4回】管理支配基準の判例について(安宅木材事件3/3) 

本シリーズの内容は、筆者が昨年、税務専門誌である税務研究会発刊「月刊税務QA」(平成26年2月号と3月号)に特別寄稿として執筆・掲載された内容を、要約及び再構成したものです。
<法令略称>
措法:租税特別措置法、措令:租税特別措置法施行令、措通:租税特別措置法関係通達

安宅木材事件において、今まで述べました原告A社と被告の課税庁の主張に対し、東京地裁はどのように判断したのか、今回(4回目)はそれを見て行きたいと思います。なお、太文字部分は判決文の原文となります。

東京地裁の判断

(1)基本的な判断基準
東京地裁はまず基本的な判断基準として、「右の基準(筆者注:管理支配基準)を充足しているといえるか否かは、当該外国子会社等の重要な意思決定機関である株主総会及び取締役会の開催、役員の職務執行、会計帳簿の作成及び保管等が本店所在地国で行われているかどうか、業務遂行上の重要な事項を当該子会社等が自らの意思で決定しているかどうかなどの諸事ら独立した企業としての実体を備えて活動しているといえるかどうかによって判断すべきものと解される」とし、「措置法関係通達66の6-16(自ら事業の管理、支配等を行っていることの意義)」(第2回目を参照)に沿った判断基準を示しています。
そして、課税当局の主張を全面的に認めた上で(納税者敗訴)、次のように判断しています。

(2)ALH社の独立性について
「ALH社は、その本店所在地国たる香港において独立した法人としての立場でその事業を自ら管理、支配及び運営していたものとは到底いえず、むしろ、その親会社たる原告がその本店所在地国たる我が国においてその管理、支配を行っていたものといわなければならない」とし、ALH社の独立性を否定しています。ALH社の株主総会及び取締役会の日本での開催、ALH社の常勤取締役の人数の少なさ(1名)、役員人事の決定場所、ALH社常勤取締役Mの給与の決定場所など等を踏まえて判決しています。

(3)子会社としての位置づけと管理支配基準について
原告A社が主張する、取締役会及び株主総会の開催場所が日本であること、役員がすべて親会社の役員と兼務であること、等については子会社としては常態であるとの件につきましては、次のように判断しています。
「措置法66条の6第3項の規定は、タックス・ヘイブン課税規定の適用除外を受けるための要件として、当該外国子会社等が自らその本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を行っていることを要求しているのであり、当該軽課税国に子会社を設立することに経済的な合理性があり、右のような事態が子会社においては一般に行われているとしても、右の要件を備えていない限り、タックスヘイブン課税規定の適用を除外しないものとしていることは前記のとおりであるから、原告の右の主張も採用できない。」
要は法律でそのように決めているのであるから、そのようにしなければダメであると、原告の主張を一蹴しています。

(4)業種について
原告Aが主張する、ALH社の業務は卸売業ではなく原告に対する貿易サービス業務であり、原告の指示に従い業務を行う事は当然である、との点に関しては次のように判断しています。「このような規定(筆者注:管理支配基準を満たしても、非関連者基準や所在地国基準等の他の要件も充たさなければタックス・ヘイブン対策税制が適用される)の仕方からすれば、同項にいう管理支配基準は、当該特定外国子会社等の業務の種別とは一応無関係に、その子会社等が独立企業としての実体を備えて、その本店所在地国において、自らの決定、判断に基づいてその事業の管理、支配及び運営を行っていると見られるか否かを問題としているものと考えるのが相当である(下線筆者)。」
つまりタックス・ヘイブン対策税制の適用除外基準は4要件あり(第1回目を参照)、そのすべてを満たさなければならないのであるから、1要件(管理支配基準)のみ業種を考慮するような考え方は妥当ではないとしています。

東京高裁の判断(平成3年5月27日棄却)

原告であるA社は第1審での敗訴を受け、東京高裁に控訴しましたが棄却の判決を受けています。東京高裁は次の付加事項を示しています。

① 実態として業務を行っているだけではダメである、自ら経営すること
  ALH社のサービス業が業として存在したとしても、その事業を外国において親会社から独立した法人として、
  その事業が自ら管理、支配及び運営されていなければ、管理支配基準を満たさないとしています。

② 資本の論理も子会社としての独立性を否定しない限度に止まるべきである
  子会社であるから親会社による支配はやむを得ないとする原告の主張に関連して、管理支配基準に係る子会社の
  独立性の判断には、資本による影響力は考慮されないとしています。「更に、ALH社が控訴人の
  100パーセント出資による子会社であることから出資者たる控訴人とALH社との間に資本の論理が働き、
  控訴人が強力な発言権を行使し、ALH社に対し指揮、監督を行うことは充分考えられるところであるが、
  資本の論理も子会社としての独立性を否定しない限度に止まるべきものであつて、その指揮、監督が事業の
  末端までに及ぶに至れば、ALH社の独立した企業としての実態を否定するに至ることは必定であると
  いわなければならない。」

安宅木材事件のまとめ

以上、安宅木材事件における裁判所の判示事項をまとめますと次のとおりです。

(1)株主総会や取締役会の開催場所、役員の職務執行場所(常勤役員の数、勤務の度合い)など、法律ないしは通達で
   規定ないしは取り扱われている要件は満たさなければならないと判示しています(*)。

(*)テレビ会議システムにつき経済産業省から国税庁への意見照会
テレビ会議システムを活用して2国間で株主総会及び取締役会を開催した場合の管理支配基準の充足につき、経済産業省から国税庁に文書照会が行われています。国税庁の回答は、開催案内の送付や議事録の作成等が特定外国子会社等で行われていること、日本在住の取締役等も、特定外国子会社等の取締役がテレビ会議で参加していること等の条件を満たせば、株主総会及び取締役会自体は軽課税国で開催されたものと同様に認められるので、管理支配基準を満たすものと取り扱って差し支えないとしています。
http://www.meti.go.jp/policy/external_economy/toshi/kokusaisozei/shinchoku140107/shinchoku140107.html

(2)その他特定子会社等が独立して事業の管理、支配及び運営を自ら行っていることに係る判定事項としては、
   以下に対する親会社の関与の度合いを低め、子会社が独自に判断するようにしなければならない。

   ①子会社の業務に係る意思決定
   ②子会社の経営上の数値管理
   ③子会社の役員人事
   ④子会社常勤役員の給与の決定

(3)子会社の業種により、管理支配基準の判断基準が変わるものではない。

(4)親会社の資本の論理による支配も、子会社の独立性を否定しない程度に止まらなければならない
   (具体的な程度には踏み込んでいません)。

次回は2番目の判例である、「ニコニコ堂事件」を検討します。

第5回コラム『管理支配基準の判例について(ニコニコ堂事件)』に続く

漫画_世界で闘う準備はあるか
高田 正昭 氏
高田 正昭 氏
公認会計士・税理士 (株)グローバル・パートナーズ・コンサルティング取締役
税理士法人グローバル・パートナーズ 代表社員
帝京大学経済学部教授
上場製造業、監査法人等を経て現在に至る。主に法人を相手に税務業務に従事している。特に最近はクロスボーダー取引及び組織再編成税制に係る税務相談が増加している。 株式会社グローバル・パートナーズ・コンサルティング http://www.g-pc.co.jp/