Chinese | English

03-3510-1616 受付時間 9:00〜17:00(土日除く)

お問い合わせ 資料請求

 

  • HOME
  • コラム
  • 海外進出企業とタックス・ヘイブン対策税制について【連載第5回】管理支配基準の判例について(ニコニコ堂事件)

コラム

グローバル

海外進出企業とタックス・ヘイブン対策税制について【連載第5回】管理支配基準の判例について(ニコニコ堂事件)

海外進出企業とタックス・ヘイブン対策税制について【連載第5回】管理支配基準の判例について(ニコニコ堂事件) 

本シリーズの内容は、筆者が昨年、税務専門誌である税務研究会発刊「月刊税務QA」(平成26年2月号と3月号)に特別寄稿として執筆・掲載された内容を、要約及び再構成したものです。
<法令略称>
措法:租税特別措置法、措令:租税特別措置法施行令、措通:租税特別措置法関係通達

今回はニコニコ堂事件を取り上げます。前回までの安宅木材事件と同様、特定外国子会社等の重要意思決定が日本の親会社で行われていた事例です。

網掛け 部分は判決文の原文の引用を意味します。

【判決】
ニコニコ堂事件(熊本地裁平9(行ウ)第3号)
熊本地裁:平12.7.27棄却:納税者敗訴:確定

事件の概要

(1) 概要
熊本県でスーパー・マーケットを営んでいた内国法人X社(原告)に対して、香港に本店を有し、現地でビル賃貸業を営む特定外国子会社等(以下、B社といいます)に係る課税対象留保金額の益金算入の更正処分が行われ、裁判で争われた事例です。「安宅木材事件」と同様、特定外国子会社等が、措置法66の6条3項に定めるタックス・ヘイブン税制の適用除外基準の内、管理支配基準を満たさないものと認定された事例です。

更正処分の対象となった原告における事業年度は平成3年4月1日~平成4年3月31日です。更正処分と国税不服審判所の採決を経て、最終的に裁判で益金算入とされた課税対象留保金額は、「2,207,259千円」です。このうち原告へのビル売却益が「2,173,679千円」とその大部分を占めます。納税者は控訴をせず判決は第一審で確定しています。なお、原告は平成6年に株式上場しましたが、判決確定後の平成14年(2002年)に民事再生法の適用を申請し、スポンサー企業に吸収合併されて、現在法人格は消滅しています。

(2) B社の設立目的と事業内容
原告X社は東南アジア・中国に対する小売業の進出拠点を確保するため、昭和61年(1986年)9月26日、100%出資にてB社を香港で設立しました。B社には社長乙(原告の海外事業部長を兼務)、現地マネージャー丙の他、現地従業員1名が勤務していました。B社は内国法人であるX社の100%子会社であり、かつ、更正処分の対象となった原告の事業年度当時、大蔵省告示(注)により軽課税国として指定されていた香港に本店を有していたので、タックス・ヘイブン税制上の特定子会社等に該当しました。B社は設立後間もない昭和61年11月から香港に所在するビル(以下、本件ビルといいます)のうち、地下1階、1階、8階及び9階部分を取得しビルの賃貸業務を開始しました。購入部分は昭和62年10月から順次売却されましたが、ビル賃貸業は1階と8階部分を平成3年3月28日に原告に売却するまでの間まで続きました。原告へ1,8階部分を売却後は、原告の委託により同ビルの原告所有部分の管理と、中華人民共和国にて設立された合弁会社の投融資が主要な業務となりました。

(注)平成4年度の税制改正まで軽課税国は大蔵省の告示で指定されていましたが、同年税制改正によりトリガー税率(現行20%未満)を基準とする内容に改められました。この改正は、外国関係会社の平成4年4月1日以後に終了する事業年度から適用されています。

課税庁の主張

前回までの安宅木材事件と同様に課税当局は「租税特別措置法関係通達66の6-16」の取り扱いに沿って、B社の管理支配基準充足要件の不備を指摘しています。

(1) 取締役会の開催場所について
   すべて原告の本店所在地である熊本市で開催されている。

(2) 役員の職務執行場所などについて
   ① 常勤役員の不在
     B社の取締役は、5人であるがいずれも日本に在住しており、
     いずれも原告の代表取締役社長、代表取締役専務貿易開発部長、取締役営業部長、取締役常務を兼ねている
     のであって、Bの常勤取締役ではない。
   ② 代表取締役乙の役員報酬と香港での勤務時間
     B社の取締役のうち、代表取締役である乙以外はB社にて勤務を行った実績はない。また本件対応事業年度
     (B社の本件に係る課税対象事業年度である平成2年9月1日~平成3年8月31日、以下同じ)中の
     平成2年11月8日から平成3年8月31日までの合計295日間の内、乙の香港の滞在日数はわずか15日
     であった。また乙への報酬はすべて原告から支払われており、B社からの支払いはない。

(3) 経費の意思決定などその他の状況について
   原告は、以下のとおり、本件対応事業年度及びその前後において、Bの事業に関する処理の方針及び
   これらに要する費用の支出について最終的な決定を行っている。
   ① 不動産事業について
     原告はその取締役会において、平成元年9月25日、B所有の本件ビル地下1階を第3者であるFに
     売却することを決議している。
   ② 金融業について
     原告はその取締役会において、平成3年4月22日、B社がC有限公司に対する増資引き受け額(245万米ドル)
     を、B社のC有限公司に対する貸付債権により引当、相殺する(いわゆるデット・エクイティ・スワップ)
     旨を決議している。またB社が桂林市に対して50万円寄付することを、同年5月9日原告の海外事業部申請
     の社内稟議により決済している。
   ③ 経費について
     原告はB社の重要な経費等に関する支出について、原告の社内稟議にて決済している。

(4) 結論として
課税当局は、上記(1)~(3)の理由により、次にように結論付けています。
「Bは、本件対応事業年度において、その本店所在地国である香港において、独立した法人としての立場で、その事業の管理、支配及び運営を自ら行っていたとは到底いえず、むしろ、その親会社である原告がその本店所在地国である日本において、Bの管理、支配及び運営を行っていたというのが相当である。」

<ニコニコ堂事件の関係図>
図表5

原告(納税者)の主張

次のように主張しています。

(1) 取締役会と株主総会の開催について
   Bの業種と事業規模からいって本店所在地国に役員全員を常勤させる必要がなく、株主総会や取締役会を
   熊本市で開催する方が便宜であり経済的であったのでこれらを熊本市で開催することが多かった。

(2) 親子会社関係と措置法通達の適用について
   安宅木材事件と同様に、原告は、親子会社の関係では親会社の子会社への関与は当然であるとの主張を
   しています。
   「子会社は、株主である親会社に報告を行い協議をした上で事業活動を行うのは極めて当然のことであり、
   措置法通達(筆者注:租税特別措置法関係通達66の6-16)の示している基準を親会社に適用する場合
   には、系列化の親会社の経営スキームを当然に考慮すべきであり、本件各処分のように措置法通達の判定基準
   を形式的に適用すると、親子会社の場合にはおよそ管理支配基準は適用の余地がないことになり不当である。」。

熊本地裁の判断

安宅木材事件と同様、措置法通達66の6-16に示されている取扱い要件に沿った判断基準を示しています。またその判断は、B社が原告にビルを売却(これでビルはすべて売却された)した平成3年3月28日以前の状況と、それ以後の状況に分けて示しています。

(1) 平成3年3月28日以前の状況
   課税当局の主張を全面的に認めています。

   <認められる事実>
    ① B社の代表取締役乙は原告の貿易部長を、また他の取締役4人も原告の取締役を兼務している。
    また、乙以外はB社の勤務を行っていないこと、
    ② 唯一B社で勤務実績のある乙も、香港での滞在期間は少なく、本件対応事業年度内である平成2年11月8日
    から平成3年8月31日までの事業年度における勤務日数は、295日のうち15日に過ぎなかったこと、
    ③ 取締役会はすべて日本で開催されていたこと、
    ④ 香港で開催された3回の株主総会も形式的なものであったこと、
    ⑤ 本件ビルの取得及び売却の意思決定が原告にて行われていること、

以上により
「Bが原告へ本件ビルを売却した平成3年3月28日の以前においても、Bの事業の管理、運営について、親会社である原告の管理、支配が強く及んでおり、Bの独立性の程度は低いものであったことがうかがえる。」と判示しています。

(2) 平成3年3月28日以後の状況
   平成3年3月28日以後のB社の事業は、不動産賃貸業ではなく、不動産管理事業と投融資事業が
   中心となります。この期間については、B社の重要な費用支出等の最終決定が原告において
   行われているという事実に加え、

    ① 原告は、平成3年7月20日、Bの従業員の賞与及び休暇について、原告の経営企画室申請の
     社内稟議により、休暇に代えて賞与を支給することを決済した、
    ② 原告は、平成3年9月1日から実施された関係会社管理規定において、出資比率が50パーセント
     を超える関係会社を子会社として管理することとし、当該子会社の経営上の重要事項について、
     原告の取締役で承認を受けなければならない旨定めた、ことを認定しました。
     そして、平成3年3月28日以後についても「Bは原告の委託を受けて本件ビルの不動産管理業を
     しているにすぎず、その管理業務や中国でのホテル事業の投資についての重要事項については、
     逐一原告の決済のもとで行われており、その間のBの事業の運営についての原告の関与の実態からみると、
     Bは、ほぼ完全に原告の管理、支配の下に置かれているものと評価することができる。」

     と判示し、B社の独立性を否定しました。

ニコニコ堂事件のまとめ

まず形式的な要件として、①取締役会及び株主総会は特定外国子会社等の本店所在地で開催する必要がある(注)、次に実質的な要件として、②特定外国子会社等の業務に係る重要な意思決定は、特定外国子会社等が自らこれを行う必要がある(親会社の取締役会や稟議決済で行ってはならない)旨、判示しています。なお、安宅事件で判示され、かつ当該事例においても原告から主張された親子会社の支配・被支配関係と独立性(措置法通達66の6-16)の関連(親子会社との関係では同通達でいう独立性を維持することには無理があるということ)について、当該判決文では特に触れていませんが、親子会社関係とはいえ特別な配慮がされないことは判決の内容からして明らかでしょう。

(注)特定外国子会社等における株主総会及び取締役会については、一定の条件のもと、テレビ会議システムによっても現地で開催したことが認められる旨の国税庁の見解が、経済産業省からの個別照会事例の形で示されています。ご一読をお勧めします。
●「外国子会社合算課税の適用除外基準である管理支配基準の判定」(株主総会等のテレビ会議システム等の活用について) http://www.meti.go.jp/policy/external_economy/toshi/kokusaisozei/shinchoku140107/shinchoku140107.html

第6回コラム『管理支配基準の判例について(レンタルオフィス事件 第1回)』に続く

漫画_世界で闘う準備はあるか
高田 正昭 氏
高田 正昭 氏
公認会計士・税理士 (株)グローバル・パートナーズ・コンサルティング取締役
税理士法人グローバル・パートナーズ 代表社員
帝京大学経済学部教授
上場製造業、監査法人等を経て現在に至る。主に法人を相手に税務業務に従事している。特に最近はクロスボーダー取引及び組織再編成税制に係る税務相談が増加している。 株式会社グローバル・パートナーズ・コンサルティング http://www.g-pc.co.jp/