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アジア諸国における会計及び税務制度 【連載第2回】ベトナム移転価格税制

アジア諸国における会計及び税務制度 連載第2回 ベトナム移転価格税制 

皆さんこんにちは。BDO税理士法人においてアドバイザリー部門の顧問をしております永田ゆかりと申します。2014年までベトナムの会計事務所に勤務をしておりました。 前号に引き続き、私がご担当させて頂く今号では、現地での実務経験をベースに、ベトナムにおける移転価格税制対応の実務、そしてベトナムと日本間での留意点につきましてお話させて頂けたらと思います。

1.ベトナムにおける移転価格税制対応の概要

移転価格税制は、同じ企業グループ等、関連者間での取引価格(移転価格)に関する税制で、グループ内取引などの際に適用されます。ベトナムでは、2012年から2013年におけるマーケットの弱化や経済成長の鈍化による税収の減少を受け、税務総局が本格的に移転価格税務調査に取り組みはじめました。ベトナムにおける大きな事例としては、コカ・コーラ・ベトナムやメトロ・キャッシュ・アンド・キャリーの10年以上にわたる赤字が移転価格操作によるものとして税務当局に問題視され、ベトナム国内で波紋を広げました。

ベトナムの移転価格税制は、2006年に施行されたCircular 117/2005/TT-BTC(“Circular 117”)というレギュレーションが土台となっています。Circular117では移転価格文書の整備や関連者取引の詳細の提出が規定されており、また、国内の関連者取引も移転価格税制の対象とされています。ただし、実務上は税務当局から国内取引の移転価格を注目されるケースはまだ殆どありませんので、必要以上に恐れることもないでしょう。とはいえ、優遇税制の適用のために税率の異なる複数のベトナム子会社をお持ちの場合などは、国内取引分にも留意が必要となるケースもあるかもしれません。
このCircular117は、2010年に施行されたCircular 66 /2010/TT-BTC(“Circular66”)に取って代わられ、現在はCircular66が移転価格税制の運用の根幹となっています。移転価格税制対応において、細かい項目で、OECDガイドライン等と差異がある場合においては、Circular66他、移転価格関連のローカルレギュレーションを優先することになっています。

昨今のベトナム税務総局は、OECDや先進国から支援を受け、移転価格に関する知識や移転価格調査のノウハウを吸収したことにより、以前よりも移転価格税制の運用がグローバルスタンダードに近づいてきたことは間違いありません。また、最近のBEPS対応等の流れで、ベトナムもOECDガイドライン等の国際的な移転価格税制のエッセンスを取り入れようとしています。

2.移転価格調査の対象となりやすい企業と、ベトナムでの「関連者」

ベトナムにおいて、移転価格調査の対象となりやすいのは、下記のような企業です。
また、いずれの場合でも、外資系企業を重視しています。

  • 長期間赤字となっている企業や、長期間において僅かな利益しか発生していない企業
  • 優遇税制終了後、利益率の急激な変化がある企業(突然損失が発生した企業)
  • Form03-7/TNDN(関連者間取引の詳細)が提出されていない企業(旧GCN-01/QLT)
  • 長期間において税務調査が入っていない企業

注意しなくてはならないのは、ベトナムの移転価格税制における「関連者」に該当するものは、資本関係を軸とした子会社等いわゆる「グループ会社」だけではないということです。
前述のCircular66の中では、一課税期間内に下記のような状況で取引が行われた場合において、それらを関連者と認識します。説明の為、下記ではA社とB社が関連者となるものとします。

  1. A社が、直接的又は間接的にB社の20%以上の資本を所有している
  2. ある会社がA社及びB社の資本を、直接的又は間接的に、20%以上所有している
  3. A社及びB社がある会社の資本の20%以上を所有している
  4. A社がB社の資本の10%以上を所有する筆頭株主である
  5. A社がB社の資本の20%以上且つB社の中長期ローンの50%以上の額の保証やローンを提供している
  6. B社の取締役の50%以上又は監査委員の50%以上が、A社により任命された者で占められている、若しくは、A社が任命した者が、B社の財務方針、事業方針における決定権を持っている
  7. A社及びB社で、役員の50%以上が同一の者である、若しくは、A社及びB社に、同一の第三者より任命された、財務方針や経営方針の決定権を持つ役員が存在する
  8. A社で人事、財務、その他事業活動の権限を持つ者、B社で左記権限を持つ者が夫婦関係、親子関係、などの親族関係である(その他親族関係の定義も有り)
  9. A社とB社が、本社とPEの関係である、若しくは、A社及びB社が、外国法人とPEの関係である
  10. B社が、A社の無形資産や知的財産を利用した商品の生産や販売をしており、当該無形資産や知的財産の利用料の支払いが原価の50%を占める
  11. A社が直接的又は間接的に、B社の生産に使用する原材料や消耗品その他(有形固定資産の減価償却費は除く)の総価額50%以上を供給している
  12. B社での1商品ベース毎での売上の50%以上を、直接的又は間接的に、A社で占めている
  13. A社、B社間で業務提携契約がある

3.ベトナムにおける移転価格税制対応の入り口:Form03-7/TNDN

日本でもベトナムでも、関連者間取引の詳細を法人所得税申告書に添付します。日本における「関連者の取引明細書(別表17(4))」にあたるものが、ベトナムのForm 03-7/TNDNと呼ばれるものです。日本でもベトナムでも、関連者間取引の情報開示が毎年度義務付けられています。

ベトナムでは、2010年から2013年まで、いわゆるForm01と呼ばれるもの(Form GCN-01/QLT)を使って、会社は関連者間取引の情報を開示しておりましたが、2014年以降はForm 03-7/TNDNに変更になっています。 Form 01では、関連者間で行われた取引に関する詳細、取引価額、使用算定方法、そして関連者の種類、等を開示します。2014年度に係る申告分以降から使用することになるForm 03-7/TNDNでは、上記に加え、納税者のセルフアセスメントによる移転価格の調整項目を記載することになっています。

新たなフォームでは、個々の取引に係る独立企業間価格に基づく再計算後の価格と当初の

実際の取引価格との差異(所得増加分)について、開示が求められます。 また、開示は、調整することにより会社の利益が増加し課税所得が増える場合にのみ必要になると思われます。再評価により会社の利益が減少する場合については、ガイダンスや規定等に記述がありません。

4.ベトナムにおける移転価格税務調査

納税者は、Circular66において定義された関連者間取引が行われている場合には、関連者間取引の利益率や価格が独立企業間価格であることをベトナム語で文書化したものを、税務当局に提出しなければなりません。もし提出していない場合、税務当局から要請書が来た際には、基本的にその受領日から30日以内に提出しなければなりません。ベトナムにおいて、文書はおよそ40~50ページ、そして言語も日系企業の場合はベトナム語と日本語、若しくはベトナム語と英語を作成する作業になりますので、最低3カ月以上を要します。余裕をもった事前の対策、検討をお勧めします。

税務調査において、担当官との交渉中に、会社側から合理的な背景があると主張をすることは勿論可能です。現実的には調査官の移転価格知識、経験等が不十分な場合等は特に交渉は長引く傾向にあります。また、法律的には行政裁判所で抗弁をする手続きもあります。

ベトナムの追徴課税に関しては、重加算税は状況により本税の100~300%、加算税が20%、延滞税は本来の納付期限後の90日以内の期間においては一日当たり0.05%、90日を超える期間においては一日当たり0.07%になります。

5.ベトナムにおける移転価格文書作成の留意点(日本との比較も含めて)

上記に述べたような追徴課税を防ぐには何が方策になるかと言うと、移転価格文書の整備が有効です。 文書化の行い方や流れ自体は、ベトナムも日本も変わりませんが、前述した通り、関連者間取引の定義が異なる等、大きく違う部分もあるので注意が必要です。

詳細な文書化の手順は割愛させて頂きますが、この独立企業間価格の算定には、(1)独立価格比準法、(2)再販売価格基準法、(3)原価基準法、(4)取引単位営業利益法、(5)利益分割法、の5つの方法が定められております。選定の際には、取引対象・役務の特性、契約条件、経済環境、経営戦略、当事者の機能や負担するリスク等の諸条件を併せて勘案します。また、例えば(1)に関してはコモディティ等でなければ利用は難しく、(2)、(3)については、他社の取引価格事例など入手困難なデータを要することから、実務上は利用が制約されます。そのため、利用が多いのは(4)となり、この方法では、関連者取引の利益水準を、比較対象取引(独立企業間価格の算定の基礎となる取引)の利益水準と比較します。

実務的には、企業財務データベースなどを基に比較対象取引の利益率の幅を抽出し、それと関連者間取引による利益率を比較して適正な利益率を決定し、適正な利益率に基づいた取引価格を算定することになります。 なお、ベトナムでは、企業財務データベースにより比較対象企業の選定をする場合、検索条件に使用するエリア(地域)について明文規定はありません。しかしながら、税務当局はローカル企業(ベトナム企業)のデータベースが使われることを好むようです。

6.相互協議手続

相互協議手続は、租税条約に適合しない課税を排除するために、税務当局間で協議する手続であり、日越租税条約やOECDモデル租税条約に規定されています。移転価格に関して二重課税が生じた場合に、納税者は相互協議を申し立てることができますが、ベトナムの税務当局は相互協議の経験があまり有しておらず、相互協議が有効に機能しているとは言い難い状況です。

また、相互協議手続の中に、事前確認取極(Advance pricing arrangement (APA))があります。こちらは関連者間取引を行う前に、一定の期間の取引の移転価格を決定するための条件(例えば、移転価格の算定方法、比較対象とそれらに行う適当な調整、将来の事象についての重要な前提)を事前に当局から確認をうける取極です。これは、一つの税務当局と一納税者との間の国内のもの(ユニラテラルAPA)と、二以上の当局の合意を含む多国間のもの(バイラテラルAPA、マルチラテラルAPA)がありますが、ベトナムではまだAPAが浸透している訳ではありません。
ベトナムでは実際にはまだAPAは行われてはいませんが、APAの規則案が2012年に公表されており、APA導入に向けた動きは明確です。また、このベトナムの規則案の中にも、ユニラテラルAPA、バイラテラルAPA、マルチラテラルAPAの適用が示されています。

7.日本税務当局向け移転価格文書のベトナム税務当局向け利用

日本の移転価格税制対応の為に既に移転価格文書を作成している場合、そのままベトナムに使えるか、という質問をよく頂きます。この場合には、日本で、関連者間取引とされるものと、ベトナムで関連者間取引とされるものに差異がある為、ベトナム子会社を中心とした、関連者間取引の見直しが必要になります。また、比較対象取引について、ベトナム企業以外が含まれている場合はベンチマーキング等見直しも必要になると思われます。また、ベトナム税務当局は、ベトナム語での移転価格文書しか受け入れませんので、ベトナム語への翻訳が必要になり、非常に専門的な分野なので、通常のベトナムの翻訳業者等ではなく、知見のある法律事務所や会計事務所が行うことをお勧めします。

また、上記に関連し、昨今のBEPS対応というものがあります。グループ内取引を通じた所得の海外移転に対して、諸課税国が適正な課税を実現する目的で、企業グループの取引全体像に関する情報を纏めていかなければならないといかなければなりません。親会社が、グループ組織図、事業概要、グループ内の財務状況や納税状況等を記載したマスターファイル、CBCレポートを作成することになります。ベトナム側に子会社がある場合、主要な競合他社、主要な関連者間取引と取引背景、移転価格算定根拠等を記載したローカルファイルを作成することとなります。

第3回コラム『ベトナム外国契約者税等』に続く

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永田ゆかり 氏
永田ゆかり 氏
BDO税理士法人 アドバイザリー部門 顧問 早稲田大学トランスナショナルHRM研究所 招聘研究員 http://www.bdotax.jp/