アジア諸国における会計及び税務制度 【連載第4回】シンガポール会計及び税務制度
皆さんこんにちは。今回より3回に亘り、BDOシンガポール・ジャパニーズデスク担当者よりシンガポールにおけるビジネス環境について会計及び税務を中心にお話しさせていただきます。
シンガポールの概要
シンガポールは東京23区より少し大きいくらいの国土面積であり、人口も約547万人と日本に比べると非常に小さな国です。しかし、1965年にマレーシアから独立して以降の経済発展は著しく、世界各国から数多くの企業が進出しています。そして、日本からも上場会社や規模の大きな会社を中心に多くの企業がシンガポールに進出しております。ここ最近は、シンガポールにおける不動産価格の高騰や外国人に対する就労許可証等の発行が厳しくなる等の状況はあるものの、今後も引き続き多くの日本企業(特に中堅・中小企業)がシンガポールに進出してくるものと思われます。
シンガポールの主な特徴として、①中華系、マレー系、インド系等、シンガポール人であっても色々な人種に分かれる多民族国家であること、②総人口約547万人のうち、シンガポール国籍保有者・シンガポール永住権保有者は約387万人であり、総人口に対する外国人の占める割合が非常に高いこと(外国人が約29%を占める)、③公用語の一つが英語であり、ビジネスだけでなく日常生活においても英語でコミュニケーションが可能なこと、④法律・規則等が整備されており、かつ政府機関のウェブサイトも非常に充実しており、ビジネスを行う上で参考になる情報を容易に得られること等が挙げられます。
また、シンガポールが加盟する東南アジア諸国10か国で構成される東南アジア諸国連合(ASEAN)は、域内経済統合を目指し、2015年末までにASEAN経済共同体(AEC)を発足することを予定しています。AECは各加盟国の経済発展状況や政治体制等に大きな差がある等の問題点が指摘されていますが、AECの発足により東南アジアに単一の市場および生産拠点が誕生し高い競争力を持つ経済圏となること、すなわち、AECによりASEAN域内でヒト・モノ・カネの流れが自由になることが期待されています。そして、現在でも東南アジアにおける地理的・経済的なハブとしての機能を有するシンガポールですが、AEC発足により今後さらに重要度が増し、日本企業にとってもますます重要な拠点になっていくものと思われます。
以下において、現在シンガポールに進出を計画している日本企業の方々に対し、シンガポールでビジネスを行うための基本情報をご紹介します。
シンガポール進出のメリット・デメリット(留意点)
まず、日系企業によるシンガポール進出にあたってのメリット・デメリット(留意点)を簡単にまとめると以下の通りです。
メリット | デメリット(留意点) |
---|---|
国としての安定性 (他の東南アジア諸国に比べて法律等がきちんと整備されている) |
生活をする上で日本と物価がほぼ変わらず(モノによっては日本よりも高い場合もある)、会社を維持するための各種コストも高い |
ビジネスインフラが安定的であり信頼できる | 日本人を含む外国人に対する就労許可証等の発行が厳しくなっている |
英語が公用語である(法律等の原文も英語であるため調べやすい) | 優秀な人材を獲得及び維持するのが難しい |
治安が良い | 税制面で、日本のタックスヘイブン税制を考慮する必要がある |
地震・台風といった自然災害がほぼ無い | 日本の制度に比べて、法定監査の対象となる会社の範囲が広い |
日本との時差が1時間のみ | シンガポール1国だけではマーケットとして非常に小さい |
他の東南アジア諸国へのアクセスが良い | |
税率が低く、統括会社に対する優遇税制等もある |
設立・清算に関する概要
シンガポールでは100%外資も会社を設立することは可能であり、設立は短期間で比較的簡単に行えます。具体的な事業形態としては、駐在員事務所・シンガポール支店・現地法人等が考えられ、各々の事業形態を比較すると以下の通りです。
事業形態/項目 | 駐在員事務所 | シンガポール支店 | 現地法人 |
---|---|---|---|
活動内容の制約 | 営業活動を行うことはできない | 営業活動を行うことは可能 | 同左 |
管轄官庁 | IE Singapore | ACRA | 同左 |
ダイレクター等の選任の要否 | ダイレクターやローカル・エージェントを選任する必要無し | シンガポール居住者であるローカル・エージェントを2名選任する必要あり(2015年8月時点) | シンガポール居住者であるダイレクターを1名選任する必要あり |
会計・監査の要否 | 法定監査を受ける必要無し | 原則としてシンガポール会計基準に基づいて会計帳簿を作成・保管する必要がある 原則として会計監査人による法定監査を受ける必要があるが、一定の要件を満たす場合には本店・支店の監査済みの財務諸表を提出することが免除される |
原則としてシンガポール会計基準に基づいて会計帳簿を作成・保管する必要がある 原則として会計監査人による法定監査を受ける必要があるが、一定の要件を満たす場合には法定監査が免除される |
税務 | 不要 | シンガポール支店は外国法人として取り扱われ、現地法人と同様に毎年ECIと呼ばれる見積り申告及び法人所得税に係る確定申告書をIRASに対して提出する義務を負う | 決算期から3ヶ月以内にECI申告を行なうとともに、決算期に関わらず毎年11月末までに、法人税の確定申告書をIRASに対して提出する義務を負う |
その他 | IE Singaporeが認可を与えた一定の期間のみ、駐在員事務所として継続することが可能 | シンガポール支店は税務上、非居住法人として取り扱われるが、日本の本店では支店の損益を合算できる | 現地法人はカンパニー・セクレタリーと呼ばれる機関を設置する必要がある |
また、シンガポールからの撤退については、支店の場合には比較的簡単に閉鎖手続きができますが、現地法人の場合には、納税完了通知を受けるまでに時間がかかる等、支店の場合に比べて清算するまでに時間を要することが多いと言われています。
会計及び税務制度の概要
シンガポールの会計基準は、Singapore Financial Reporting Standards (SFRS)と呼ばれており、SFRSの各基準書はシンガポールの会計基準委員会(Accounting Standards Council、ASC)により公表されています。当該SFRSの内容は基本的に国際財務報告基準(IFRS)に基づいていますが、IFRSへのフルコンバージェンスは2015年8月末時点では行われていません。そして、シンガポール法人に対しては、2003年1月1日以降開始する事業年度よりSFRSが適用されています。
シンガポールの法定監査制度は、日本の制度に比べると監査対象範囲が広く規定されています。この点、若干の見直しにより、新シンガポール会社法が今年施行され、新会社法では新たに小会社(Small company)という概念が導入され、当該小会社に対しては法定監査の免除が与えられています。法定監査が免除される小会社の定義として、①非公開会社であり、かつ、②以下の3項目のうちいずれか2つの項目を満たす会社とされています(各数値については連結数値に基づき判断する必要があります)。
- 年間売上高が1,000万シンガポールドル以下であること
- 総資産金額が1,000万シンガポールドル以下であること
- 従業員数が50名以下であること
一方、シンガポールの税制は日本の税制に比べると単純であり、シンガポールでビジネスを行う際に課される主な税金として、法人所得税(国税のみであり、地方税は無し)、GST(日本の消費税に該当し、現行税率は7%)及び印紙税等があります。また、個人に関する税目でありますが、シンガポールでは日本のような贈与税や相続税はありません。
シンガポール法人所得税を日本の法人税と比較すると以下の通りです。
項目 | シンガポール | 日本 |
---|---|---|
法人税率 | 17%(部分免税や各種軽減税率インセンティブあり) | 23.9%(中小法人に対する軽減税率等あり) |
税務年度 | 税務上の年度は賦課年度(Year of Assessment)と呼ばれ、会計上の年度と一致しない | 会計上の年度と税務上の年度は一致する |
居住性 | シンガポールにおいて支配・管理がなされている法人のみが居住法人 | 日本国内に本店・主たる事務所がある法人は、居住法人として取り扱われる |
課税範囲 | 原則として属地主義の考え方 | 内国法人は全世界所得課税 |
キャピタルゲイン課税の有無 | 無し | 有り |
税務上の繰越欠損金の取扱い | 主要株主(50%以上)が変わらなければ期限無く繰越可能 | 基本的には発生から9年間繰越可能(控除限度額あり) |
税額の決定方法 | 賦課課税方式(税務当局が税額を決定し、賦課決定通知書を納税者に送付する。当該通知書に基づき納税者は税金を納付する) | 申告納税方式(納税者が申告書を提出するとともに、納税者が当該申告書上にて計算した税額を納付する) |
申告期限 | 決算月に関わらず決算日の属する年の翌年11月30日 | 原則として決算日から2ヶ月以内(事前に届出をすることで延長も可能) |
納付期限 | 「賦課決定通知書」を入手してから1ヶ月以内(分割納付も選択可) | 申告期限と同じタイミングにて納付(申告期限の延長をしている場合も納付期限は延長できない) |