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アジア諸国における会計及び税務制度 【連載第5回】シンガポールにおける法人所得税、個人所得税及びその他税制

アジア諸国における会計及び税務制度 連載第5回 シンガポールにおける法人所得税、個人所得税及びその他税制 

法人所得税要

シンガポール法人所得税の取扱いは、日本の税制と異なる部分が多いため、日本と同様に考えると、予想しない誤りを生じる可能性がある。本コラムでは、シンガポールの法人所得税と日本の税制とで取扱いが大きく異なる①法人の居住性と②資本取引について取り上げる。

まず、法人の居住性について、日本では国内に本店・主たる事務所がある法人は居住法人として取り扱われる。一方で、シンガポールでは管理支配地主義によっており、シンガポールにて支配・管理がなされている法人のみが居住法人となる。すなわち、たとえシンガポール国内で設立された法人であっても、日本にて当該シンガポール法人の支配・管理がなされている場合(具体的には、日本国内にて当該シンガポールの取締役会が開催されている場合)には、当該シンガポール法人は非居住法人として取り扱われる。

しかしながら、非居住法人であっても、居住法人と同様に税率は17%が適用され、法人税に係る確定申告書を作成してシンガポールの税務当局であるIRASに提出する義務を負う。一方、非居住法人と居住法人とでは以下の3点で取扱いが異なり、非居住法人はこれらの点で税務上不利と考えられる。

  • 非居住法人はシンガポールが各国と締結している租税条約上の恩典を享受することが出来ない。
  • 非居住法人は外国税額控除を行うことが出来ない。
  • 非居住法人は国外源泉所得に係る免税(例えば、外国子会社からの配当金の受取は免税となる等)の取扱いを受けることが出来ない。

次に、シンガポール税制では資本取引と損益取引で税務上の取扱いが異なる。すなわち、資本取引から生じるキャピタル・ゲイン(例えば株式の売却による収益や不動産の売却による収益)はシンガポール税制上、益金として課税所得額に算入されない。一方で、日本の税制では株式の売却による収益や不動産の売却による収益は課税対象となる。ただし、シンガポール税制においてキャピタル・ゲインの明確な定義は無いため、資産の保有期間、取引の頻度、資産購入時の動機や意図、資産売却時の状況等を考慮して、行った取引がキャピタル・ゲインに該当するか否かの検討が必要になる点に留意が必要である。前述のように、キャピタル・ゲインが益金に算入されないため、キャピタル・ロス(例えば株式売却損や不動産売却損等)が発生した場合には損金不算入の取扱いとなる。この点にも留意が必要である。また、会社設立費用、増資・減資のため法律事務所等に対して支払った費用等は資本取引の性格を有するとして、損金不算入項目として取り扱われる。

個人所得税

日本企業がシンガポールにおいて新たにビジネスを始める場合、シンガポールに子会社を設立して、当該子会社に自社の従業員を派遣することが多いと考えられる。以下では、日本人駐在員がシンガポール子会社に派遣された後、日本に帰国するまでの流れの中で必要となる個人所得税の手続きについて説明する。

前提:日本法人であるA社はシンガポール法人B社(A社100%子会社)に、A社の従業員Cを駐在員として、2年間の任期で派遣する。Cは2015年10月1日からB社で勤務している。Cは年数回の海外出張はあるものの、それ以外はシンガポールで勤務している。

2015年10月 会計事務所を税務代理人として指名する場合には、その旨をIRASに対して通知する必要がある(Note 1)。
2016年4月 原則として毎年4月15日(電子申告の場合には4月18日)までに個人所得税の確定申告書をIRASに対して提出する義務を負う(Note 2)。
2016年8月~10月 IRASが確定申告書の内容をチェックして、納税額が記載された賦課決定通知書を納税者に送付する。原則として、納税者は賦課決定通知書の発行日から1か月以内に納付しなければらならない(分割払いも選択可)。
2017年4月 1年目と同様に、個人所得税の確定申告書をIRASに対して提出する義務を負う(Note 3)。
2017年8月~10月 IRASが確定申告書の内容をチェックして、納税額が記載された賦課決定通知書を納税者に送付する。原則として、納税者は賦課決定通知書の発行日から1か月以内に納付しなければらならない(分割払いも選択可)。
2017年9月 日本に本帰国するまでに(通常は帰国の1か月前までに)Form IR21をIRASに対して提出(Note 4)。

Note 1: IRASは Inland Revenue Authority of Singapore(内国歳入庁)の略である。

Note 2:原則として、シンガポールに年183日以上滞在する者が居住者として取り扱われるが(非居住者と比べて居住者の方が税務上有利な取扱いを受けられる)、特別なルールに基づき、駐在員等2年間以上シンガポールで勤務することが予め決まっている者については、たとえ初年度の滞在日数が183日未満であっても居住者として取り扱われる。よって、本ケースにおいてもCは居住者として申告することが可能である。

Note 3:2016年1月1日から12月31日までの間で183日超シンガポールに滞在しているため、シンガポール居住者として取り扱われる。原則として居住者は、シンガポール国内で得た所得が課税対象となる。シンガポール法人で勤務している対価として、日本で受け取っている給与等がある場合でも、当該日本払い給与はシンガポールで得た所得として申告する点に留意が必要である。

Note 4:2017年1月から2017年9月までに得た所得に係る税金については、日本への本帰国前に精算する必要がある。具体的には、Form IR21と呼ばれるフォームに必要事項を記入してIRASに対して提出する。なお、Form IR21の作成・提出義務自体は、従業員ではなく雇用者が義務を負っている。

その他税制(GST)

シンガポールでビジネスを行うにあたっては、Goods and Services Tax(GST)も重要な税目の一つである。GSTとは日本の消費税に相当するものであるが、全ての事業者が申告義務を負うのではなく、GST登録事業者となった者だけが対象となる(GST登録事業者以外は顧客等に対してGSTを請求し、GSTを預かることは出来ない)。日本の消費税と同様に、顧客から預かった仮受GSTからサプライヤー等へ支払った仮払GSTを差し引いた金額を納付するか、あるいは仮払GSTの方が仮受GSTより大きい場合にはGSTの還付を受けることになる。

シンガポールのGSTが日本の消費税と異なる点として、シンガポールの税率は7%であり、またインボイス方式が採用されている点である(日本はアカウント方式)。インボイス方式とは、発行者の名前、住所、GST登録番号、売上日、相手先の名前・住所、売上の内容及びGSTの額等が記載されたタックス・インボイスを証拠として、仕入税額控除を行う方法である。すなわち、例え会計帳簿上でGST発生取引を記録していたとしても、タックス・インボイスが無ければ仕入税額を控除することが出来ない。

シンガポールに法人を設立しただけではGST登録事業者としての登録は不要であるが、以下の条件を満たす場合にはIRASに対してGST登録事業者として登録手続きを行う義務があるため、留意が必要である。

  • 過去12か月間の課税売上(7%課税売上及び0%免税売上の合計)が100万シンガポールドルを超える場合
  • 将来12か月間の課税売上(7%課税売上及び0%免税売上の合計)が100万シンガポールドルを超えることが予測される場合

実務的には、上記の条件を満たさない場合でも、多額のGSTを支払った法人は、GSTの還付を得るために自主的にGST登録事業者としての登録を行うことも多い。

また、日本の消費税と異なり、シンガポールでは原則として課税期間が3か月であるため、四半期ごとのGST申告義務が課せられている。納付については、シンガポールの法人所得税・個人所得税とは異なり、GST申告書の提出と同時に納付する必要がある。

第6回コラム『シンガポールにおける優遇税制及び日本との租税条約』に続く

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岸 賢一郎 氏
岸 賢一郎 氏
BDO Tax Advisory Pte. Ltd. 
税務マネージャー兼ジャパン・デスク担当 慶應義塾大学商学部卒、日本国公認会計士
2001年10月より監査法人トーマツ(現、有限責任監査法人トーマツ)の東京事務所にて約6年間国内監査業務に従事。 その後、BDO税理士法人(日本)にて約4年半、国内及び国際税務サービスを提供。 2012年5月以降、BDOシンガポールにて税務マネージャーとして日系・非日系の法人向け・個人向けの税務サービスを提供するとともに、ジャパン・デスク担当としてシンガポール進出を目指す日系企業等に対する会社設立、法定監査、税務申告、会計サービス等に関するコーディネーション業務を提供中。 https://www.bdo.com.sg/en-gb/home