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コラム

安全衛生教育

第2章 安全衛生に活用するVR教材のパターン(制作方法編)

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安全体感?危険体感?

はたして、安全衛生教育に、「危険の体感」が必要なのでしょうか。

危険体感は従来より、"危険を安全に体感" でき、事故等を防ぐために欠かせない危険感受性の向上に有効な手段として、多くの企業で安全教育の中に取り入れられてきました。しかし、現実では体験が難しい場面、例えば「墜落」「爆発」「交通事故」などでは、リアルに災害状況を再現することは困難でした。そこで、近年、疑似体験するという意味で、視覚と聴覚だけでは教育効果が弱い事故事象については、触覚や嗅覚に対して刺激を与える装置を追加導入することで、よりリアルで効果的な教育が可能となります。

こういった危険体感教育は、無意識に起こる「反射」や「反応」などの人間の本能的・感覚的な部分に訴えかけるもので、座学と組み合わせることにより、 "自分の身にも起こるかもしれない"という実感を伴った知識として習得することができます。この教育を通じて、危険感受性が育まれるだけでなく、日々の業務において自主的に危険予知・回避を行うようになることが期待されています。一方で、リアルな災害状況の再現については、トラウマ(心的外傷)として残ることも懸念されることから、体感機器のメーカーや導入企業においては、教育効果を考えつつ、十分な配慮と対策も必要です。

安全体感教育にいち早くVRを取り入れた企業の活用事例

ここで、この危険体感教育にVR等の最新技術を組み込み、教育の幅を広げる企業について、その動向及び活用方法(制作方法)の違いを紹介します。コンテンツの活用方法(制作方法)の違いによって大きく分けますと、以下のようになります。

①「既製コンテンツ」:シナリオ・制作ともに既製
②「外注コンテンツ」:シナリオは自作/制作は外注
③「自作コンテンツ」:シナリオ・制作ともに自作

①既製コンテンツの活用事例

「既存VRを自社独自に組み入れた事例」(N社)

(中略)
 取り組みの柱として3つ(①知識〜教育 〜、②経験〜体感〜、③意識の持続〜心〜)を掲げている。意識の持続では、「立ちどまる勇気、とめる勇気」の浸透を目的に、幹部からの安全メッセージ視聴、「事故を起こさない意識の浸透」を目的に、事故再現映像の視聴等を実施している。これらの取り組みの中でも、特に「②経験」においては、すべての作業者に同等の作業経験を積ませることは難しい。また、実際に、事故やヒヤリハットを体験させることができれば、最も良い経験となるが、大がかりな設備が必要となり、実現が困難であるため、VRを活用し、過去発生した事故を疑似体験させることで、事故となるポイントを理解させ、「危険を危険と感じる感受性の向上」の取り組みを行っている。また、危険体感だけでなく、VRを活用したKYT(VRKYT)を導入し、「危険探求性の向上」を目的に、作業環境に入り込んだKYTを実施する取り組みを行っている。
(中略)
危険体感では、過去の事故事例をコンテンツ化し事故を疑似体感することで、危険感受性の向上を図ってきた。しかし、当初のコンテンツは、音声ガイダンスに従い操作することでNGパターン(事故となるパターン)のみを体感する内容であったため、利用者からは、「怖い思いはするが、ただ怖いだけ」等の意見があがった。そこで、「危険を体感することで感受性の向上を図る」という本来目的に加え、作業内容・正しい手順・誤った手順を確認でき、手順の正誤により、OKパターン・NGパターンを体験できるよう、育成の観点も取り入れたコンテンツへ改良した。

出典:中災防「第79回全国産業安全衛生大会 研究発表集 安全衛生教育分科会」より抜粋

②外注コンテンツ(ニーズに適う体感装置の組み合わせ)の活用事例

「VR体感装置の開発・外販開始・そして安全体感車の導入」(M社)

(中略)
出張安全体感教育は、作業員の危険に対する感受性向上に成果を上げたが、建設業界で最多の事故である 「墜落、転落」他、本当に危険な状態となる体感教育はできなかった。VR元年といわれた 2016年、VR技術活用により、このような事故の型も体感できるVR体感教育を完成させた。VR体感教育は、さまざまな業界から大きな反響、問い合わせがあり、お客様の指定場所や施工現場へ訪問する外販を開始した。

その後、受講者ニーズを収集し、体感装置やVRコンテンツを順次改善させ、教育を充実させていった。体感装置とVRを融合した、実際に感電するVR感電体感も開発した。2017年6月には安全体感車(ガルウイング型)を製作し、全国各地の稼働現場やお客様へ出向き、教育を展開している。出張安全体感教育を開始してから 2019 年度末まで、社内と外販合わせて約370現場、延べ約21,000人が受講した。特に外販では継続した注文が多い。社内の施工現場では、現在まで受講した作業員で労災を発生した人はいないことから、「危険に対する感受性向上」という目的に対して一定の効果が認められる。現在の体感車は、お客様からの教育ニーズに応えるため、各種体感装置の載せ替えを可能なまでに進化している。

出典:中災防「第79回全国産業安全衛生大会 研究発表集 安全衛生教育分科会」より抜粋

②外注コンテンツ(過去の災害を再現)の活用事例

「”安全意識”を身に付けるために」(H社)

(中略)
VRを用いた体感教育は「車両との接触事故」や「車両巻き込まれ」「階段転落」など、現物を用いた体感では実現不可能だが、死亡につながるような危険な事故の教育を担っている。特に、車両事故については、事故防止のための人車分離を徹底している。

VR危険体感教育では、過去に起こった災害について、周囲の情景や作業服などを再現することにより、実際に災害現場にいるかのような臨場感をもって体感することができる。そのため、こういった災害が実際に"ありえる"ことだと身近に感じて、強く印象に残るという。また、「次はこうなるだろう」と先が読めてしまうと疑似体験時のインパクトが薄れてしまうため、不自然な状態がなく進行するよう、 シナリオづくりには苦労したそうだ。同社では安全教育センター設置以前から、「過去の災害展」として実際に起こった災害をパネルで展示するなど、 危険を明確に印象付ける取組みを行ってきた。

そして、「もちろん実際にけがをさせるわけにはいかないが、事故が起こるとどうなるか、身をもって分かってもらう方法はないか」と考え、危険体感教育の導入に至ったという。また、いつも同じ教育内容では、「慣れ」や「飽き」によって効果が薄れていく。そのため、新しい事項を取り入れることで、それが刺激となり、より教育効果が上がることも期待しているそうだ。

出典:中災防「安全と健康(第72巻第2号)」より抜粋

③自作コンテンツ(災害の再現から教育まで完全自作)の活用事例

「 VR映像を使ったトレーニングで現場でなくとも臨場感のある安全教育が可能に」(N社)

(中略)
「例えば荷役機器や冷凍機などの倉庫設備の保守点検に関しても、経験や体験を通じて心に刻まれる仕組みがほしいと考えていました。しかしその教育に実機を用意するのは費用や場所が課題となります。そんな折に知ったのがVR学習システムでした。VRなら場所を取らない上に、臨場感、また新鮮味もあるので、当社の教育に使えるのではないかと考えたのです」
(中略)
音声対応も実現している。物流の現場では、フォークリフトの走行音や後退時に鳴らすブザー音なども安全確認で重要な要素であり、これがないと臨場感が欠けてしまうからだ。
(中略)
安全配慮と業務スキル底上げのためにVRという新しい技術を使って、だれでも手軽に体験できかつ実践的な教育コンテンツを提供し、事業所や従業員ごとの教育環境の差を埋める仕組みを構築しようとしている。

出典:ビジネスエンジニアリング(株)「mcframe 導入事例」より抜粋

 

既製コンテンツ、外注コンテンツ、自作コンテンツの違いとメリット、デメリット

上記の既製コンテンツをうまく活用した事例、外注コンテンツで災害を再現した事例、また自作コンテンツを発展させた事例などから、それぞれの活用方法の違いやコンテンツ制作方法に関する違いに加え、メリット・デメリットも見えてきました。

ここで、それぞれのメリット、デメリット について、簡単にまとめてみましたので下表(表1)をご参照ください。

表1:「既製コンテンツ、外注コンテンツ、自作コンテンツの違いとメリット、デメリット 」 2022.3現在 当所調べ

 

主なビジネス的メリット・デメリット

既製コンテンツ

メリット
・比較的安価で手軽。内容も一般的でわかり易いコンテンツ。
デメリット
・危険の体感のみ。現実味や法令には対し違和感が残る。

外注コンテンツ

メリット
・現実味が高い。災害回避の成否分岐も可能。
デメリット
・比較的高価で手間も要する。現場を熟知していないと困難。

自作コンテンツ

メリット
・比較的安価で手軽かつカスタマイズも容易。OJTにも活用可。
デメリット
・現場や法令を熟知していないとシナリオ作成が困難。

危険を安全に体感する=災害をVRで疑似体験する

VRを用いた危険体感教育は、労働災害防止はもちろん、自然災害(風水害・地震など)に対する防災訓練など、幅広い教育・訓練に用いられるようになってきています。また最近では、災害現場を再現するだけにとどまらないプログラムの開発も進められるなど、VR等を取リ入れた危険体感教育は日々アップデートされています。

しかしながら、自分自身が体感してみないことには、具体的な話もできません。百聞は一見に如かず、ならぬ、百聞はVRに如かず。コロナ禍に負けじと素晴らしいイベントが各地で開催されるようになってきましたので、いろいろ体感してみました。

VRを使った安全教育ツールが世に出だした頃は、全国緑十字展などでも体験会が開かれたり、すでに目を付けていた企業が先行導入していましたので、“見事に再現されていて足がすくんだ”、“学ぶというよりむしろ楽しめる”、“これまでの退屈な教育とおさらばだ”といった楽観的な意見を多く耳にしました。導入を試みる前に、まずは自分の体感で確かめることからはじめました。

VRが一世を風靡したゲーム業界の流行ピークを越えた頃でしたでしょうか。次はいよいよニッチな業界に手を回してきたなと思いつつ、日本は平和過ぎてケガの痛みさえ知らない人が存在するくらいだから、語るだけでもヒヤリハットだけでも通じない時代に入るだろうから、これからの安全衛生教育には“教育効果”にも“ビジネス”にも“もってこい”だろうと勝手に期待を膨らませておりました。視覚と聴覚をコントロールされるのですから、さぞかしゲームに没頭する感覚に近い状態で、まるで本当に墜落したり腕を巻き込まれたりするのだろうかと、おぞましい映像と音声を妄想していました。

ところが、いざ体験会場へ足を運ぶと、パネルモニタより先に目に飛び込んできたのは、一人の体験者を取り囲む4人のスタッフの姿でした。うち3人は右側・左側・後方に配置され、手を広げて見守っていて、汗だくでPCを操作しながら体験者に声を掛けるスタッフリーダーが切盛りしていたのです。

そして体験者の頭に装着されたヘッドセットから伸びる黒ケーブルの束が床に這い、振動と微電流を流す手袋からは別のケーブルが伸び、黒ケーブルと合流して巨大な高性能ゲーミングPCの出力を全て塞ぎ、そのPCから先をカメラ・センサー・電源ケーブルが床を占有。これじゃまったく不安全状態じゃないかと思いながら数分待っていると、汗だくのリーダーがペットボトルを片手に立ち位置を案内してくれ、横のスタッフからVRマスク(目の周りを覆うメガネのような不織布)を受け取り、後ろのスタッフからヘッドセットをおもむろに頭上からかぶせてきて、見えるか聞こえるか確認したらすぐスタートしました。

すでに現実の床は見えないため黒ケーブルを数本踏みながら移動すると、同期されたCG上を移動し、足がすくむ間もなく手摺の無い高所から墜落するというシナリオ。とたんに三半規管がバランスを失い、気が付いたら後ろのスタッフに抱きかかえられていました。安全衛生教育のルーキー到来かと鼻息荒く意気込んでいたのも束の間、はたしてこのルーキーをまともに投入できるのかと不安に駆られながら、半ば放心状態で帰路に就いたのを覚えております。

VR危険体感教育に関する注意点

さて、ここでお伝えしたいのは、結局難しそうだからやめておきましょうということではございません。絶句し放心するほど衝撃的な体感をもってすれば、たしかに危険に対する感受性の向上が期待されることに加え、災害に至るストーリーと要因を、身をもって分かるようになる教材としては唯一無二だと感じました。

また、各メーカーは競争しつつさまざまな障壁を乗り越え、なんと今や“ワイヤレス”で実施することが可能となってきています。ワイヤレス化の実現によって、足元の煩雑なケーブル類が無くなる分だけ接続に迷うことなく踏むこともなく、重いPCも不要になることによって価格も下がり、ますます講師の負担が軽減されてきております。つまり、従来の座学だけの教育より効果の期待できるVR教育を手軽に実施できるようになってきたということです。

ここで、すでにVRツールを使って教育されておられる方も含め、いくつか注意点を申し上げておきます。受講者の中には「人の反応を見ていると滑稽で笑ってしまう」「VR=ゲームと割り切ってナメる」、逆に「心臓に負担がかかる」「トラウマになる」という方もいらっしゃいますので、決してからかいを煽ったり、脅したり、強制させたりすることのないようにお願いします。

また、各メーカーは安全工学等の専門家でもなく、法定カリキュラムがあるわけでもありません。あくまで安全衛生教育の一環として、”危険を安全に体感させることを通じて教育する”目的をもってのご利用を推奨いたします。

次章に続く

野間 義広
野間 義広
労働安全コンサルタント(化−第591号) 製造業や建設業等における安全衛生に関する管理から実務まで幅広い知識と経験で多方面から共感を得ている安全衛生の専門家。安全管理者・衛生管理者・化学物質管理者・危険物取扱者などの経歴をもち、安全診断業務、各種特別教育講師の傍ら、社労士支援コンテンツ制作・安全衛生クラウドシステム開発・VRコンテンツ開発などを支援している。日本労働安全衛生コンサルタント会会員。