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安全衛生教育

【第6回】安全衛生教育に適したVR教材とは その1

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労働災害防止の理念と安全衛生対策

およそ45年前、労働省(現 厚生労働省)は、国民全体で労働災害防止に取り組むための骨子である「労働災害防止計画(※1)」を策定しました。直近の第13次労働災害防止計画においては、「働く方々の一人一人がかけがえのない存在であり、それぞれの事業場において、一人の被災者も出さないという基本理念の下、働く方々の一人一人がより良い将来の展望を持ち得るような社会としていくためには、日々の仕事が安全で健康的なものとなるよう、不断の努力が必要」と示し、「労働者の危険感受性の低下が、労働災害が減少しない原因の一つとなっているとの指摘があることを踏まえ、VR技術を応用した危険感受性を高めるための教育(以下「VR教育」という)の推進(※2)」を図ってきました。

労働災害を防止することは、企業のリスク回避においても労働者の生活においても必要不可欠であることはいうまでもありません。しかし職場で怪我や病気が起きたとしても、他人事で済まされてしまってはいないでしょうか。人は、一人だけで成し得ることは限られています。一人の生活が需要を生み、その需要は幾多の労働によって満たされ、その労働が一人の生活を支える源に繋がっています。一人ひとりがかけがえのない存在であるからこそ一人でも多くの労働者を怪我や病気から守り防ぐ安全衛生活動、とりわけ安全衛生教育によって一人ひとりの危険感受性を高めることが求められているのです。

※1:労働災害防止計画は、厚生労働省(旧労働省)によって戦後の高度成長期における産業災害や職業性疾病の急増を踏まえ、1958 年に第1次の計画が策定された。その後、社会経済の情勢や技術革新、働き方の変化等に対応しながら、これまで 13 次にわたり策定されてきた。第13次労働災害防止計画の提唱期間は2018年〜2022年度までの5年間。現在、2023年2月頃に第14次労働災害防止計画(2023年度〜2027年度)が策定される予定となっている。安全衛生関連行政や官民協議などは本計画理念に基づいている。

※2:「第13次労働災害防止計画(平成30年2月 厚生労働省)4 重点事項ごとの具体的取組(8)国民全体の安全・健康意識の高揚等 」より引用。

労働災害防止には危険感受性が不可欠

職場における労働災害回避の成否を左右するのは、労働者自身の危険感受性です。労働災害に限らず危険を回避するために必要なのは、最終的に当事者による具体的な行動ですが、その行動を実行できるかどうかは、当事者の脳内における判断と身体への指令によって決定されます。

自動車運転に例えると、ブレーキやハンドリングなどによる事故の回避は、運転者が回避するために必要な理想の自動車の挙動を瞬時に発想し、そして脳から身体への指令を通じて可能な限り自動車の挙動をコントロールし、これに成功した結果であるといえます。ただ根本的に、当事者の回避行動は、そもそも運転手が予知・察知・感知した事象から予想される事故を回避するかどうかの判断に始まります。この初期判断から危険回避に至る一連のプロセスは、回避するために必要な危険感受性が不足していては始まりません。

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どのようにして危険感受性を維持向上させるのか

危険感受性は自身に迫る危険を本能的にもしくは経験則的に予知・察知・感知する能力であり、言わば環境に対する危機感のようなものです。たとえば生まれて間もない乳児が本能的に環境に対し不安を覚えた結果、これを回避するために泣くという行動を起こすことからも、人間は誰しも危険感受性を備えていることがわかります。また幼少期から青年期にかけて教育訓練や偶発的な事故や災害の経験などを通じて、その者の危険感受性は成人するまでの間に十分備わっていると考えられています。

一方、ベテランドライバーであっても長年のブランクや老化が原因となって危険を回避する運動能力が低下してしまうことがあるのと同様に、労働環境下においても労働者のブランクや老化によって危険感受性が低下し、それが労働災害を引き起こす原因の一つになっているのではないかと危惧されています。老化を避けることは不可能ですが、ブランクを避けることくらいはできるかと思います。

これらのことから、危険感受性の低下を防ぎむしろ向上させるには、少なくともブランクを与えないようにすること、つまり、労働者に対して継続的に危険感受性を呼び起こすようなトレーニングなどが有効です。

例えば、OJTにおいて危険のポイントを教示し新たな危険予知能力を開発したり、KYTやKYMのように定期的に安全衛生の急所をおさらいしたり、DVDなどの視聴覚資料で危険に対する恐怖感を呼び起こしたりなどを、全体又は個別に実施するような”安全衛生教育”や”教育訓練”の機会を設けることが最も適しているのではないでしょうか。

それでも危険感受性を低下させてしまう原因があるなら

安全衛生教育には、知識や技能を習得することを法令で義務付けられているものから企業内の自主的活動、あるいは自己啓発に至るまで様々存在します。それらの目的はもちろん教育を受ける労働者自身を労働災害から守ることにあるのですが、ときに教育を受ける労働者の目的が単に就業制限を受けることを免れるためであったり、飯の種とするためであったりすることがあります。

一方、事業者は単に法的責任を果たすために仕方なく実施することが経営の一手であると思い込んでいたり、業績不振に陥るとつい利益を惜しんで安全衛生教育を省いたりすることもあるでしょう。 

これらの考えや心情は、労使それぞれの思惑からなる自然発生的な本音でしょうし、決して頭ごなしに不真面目であると戒めるものではありません。ただ、このような労使に共通しているのは、災害を防止する目的はもとより危険感受性に対する興味さえ無くなってしまっているという点です。悪く言えば、安全衛生教育と言う名のノルマをこなしているように窺えてしまいます。これでは労働者にブランクを与えることになり、せっかく備えている危険感受性が低下してしまいます。そうなると、だんだん危険に気付かなくなり、さらに回避失敗が頻発し、ついには労働災害が増加するという悲惨な結果を招いてしまうのではないでしょうか。

もし、労働災害がなかなか減らないと嘆いているにも関わらず、労働者の不安全行動の改善に労使とも行き詰まりを感じているのであれば、まず危険感受性の低下を睨み、安全衛生教育の見直しから始めてみてはいかがでしょうか。

「危険感受性」を向上させれば済むわけではない

「危険感受性」はあくまで危険を回避しようとするきっかけに過ぎず、正しい判断を導くための「情報処理能力」、正確に行動に移すための「身体能力」のうち一つでも欠けてしまうと、理想の行動変容を実現できません。さらに、危険回避に至る一連のプロセスを実現するためには、危険回避に失敗する体験、すなわち労働災害に至る一連のプロセスについても理解しておく必要があります。しかし、実際に危険回避に失敗させるということは、単なる労働災害を引き起こすことになってしまうため、これは実現不可能です。

では、どのような安全衛生教育を実施すれば、危険感受性を向上させ、かつ危険の回避について学習させることができるのでしょうか。

次回:第6回 動画・図書教材とVR教材で安全教育への効果はどう変わるか その2

前回:第5回 動画・図書教材とVR教材で安全教育への効果はどう変わるか その2

安全衛生教育にVRが有効な理由
野間 義広
野間 義広
労働安全コンサルタント(化−第591号) 製造業や建設業などにおける危険有害作業経験と管理経験を併せ持ち、歯に衣着せぬコンサルティングで多方面から信頼を得ている安全衛生専門家。安全診断業務のほか、安全衛生推進者養成講習や各種特別教育などの安全衛生教育講師、業務支援コンテンツ制作やVR教育の普及に取り組んでいる。日本労働安全衛生コンサルタント会会員。