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【第6回】安全衛生教育に適したVR教材とは その2

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危険感受性を向上させる安全衛生教育は「VR教育」

近年、目と耳を完全に覆う密閉型の視聴覚機材(ヘッドマウントディスプレイ(以下「HMD」という))を使って360°見渡せる画像や3DCGなどを常に主観視点で上下左右を自由に見渡すことができる技術、いわゆる「VR」技術が開発されるようになってきました。

このVR技術を応用すれば、労働災害の現場を再現した動画をHMDで視聴するとまるで自分が本当に労働災害に遭ったかのような疑似体験を、実際に怪我を負うリスクを排除した状態で得ることができます。

よって、危険感受性の維持向上を図ることができる安全衛生教育とは、上述のようなVR技術を利用した教育を指し、冒頭で述べた「VR技術を応用した危険感受性を高めるための教育」とは、まさにこの手法のことを言います。また、さらに効果的な運用するためには、座学などによる知識を中心とした従来の教育を補う形で、定期的に継続することが最も適しています。

「VR教育」へ期待される効果

ここで、今年度中の制定が予定されている第14次労働災害防止計画(案)に触れておきましょう。

この中では、「誰もが安全で健康に働くためには、労働者の安全衛生対策の責務を負う事業者及び発注者のほか、労働者、消費者・サービス利用者など、全ての関係者が安全衛生対策について、自身の責任を認識し、真摯に取り組むことが重要である」と示し、またVR教育に関しては「作業手順の理解や危険への感受性を高めるためのVRの活用について、より安全に資するものとなるよう所要の要件を検討する(※1)」と記されています。

このことから、単にVR技術を利用するだけではなく、”より安全に資する”、つまり”より効果のある”ものが求められていることが分かります。たしかに、VRは数年前に比べるとありふれており、VR技術を利用して擬似的な危険体感が可能となるソフトウェアは数多く開発されてきています。しかし、その教育効果を計測したり災害の減少に繋がっているか実証するデータを分析したりするところまでは至っておらず、課題が残っているのです。

現行のVR教育では、試行錯誤で「VR(視聴覚)」に「体感(触覚)」を同時に加えてみることでより深く印象に残すことを図ったり、「測定(採点)」を加えることによって認識レベルを見える化したりできるものもリリースされるようになりました。しかしながら、本来の目指すところは「印象の深さ」でも「点数の高さ」でもなく、”安全に資する”ことです。これは、決して履き違えてはならず、ブレてはならない重要ポイントであると同時に、難関ポイントでもあります。

では、どのようにしてこの重要かつ難関な課題の解決に挑めばよいのでしょうか。

※1:「第14次労働災害防止計画(案)(令和4年11月 厚生労働省)4 重点事項ごとの具体的取組(6)業種別の労働災害防止対策の推進 」より引用。

VR技術を利用した安全衛生教育を提供するシステムの特徴

VR技術を利用した安全衛生教育を提供するシステム(以下「VR教材」という)は、コンテンツの作り方によって大きく分けて2つの種類があります。一つは3DCG型、もう一つは実写型です。またVR教材に使用されるVRツールやコンテンツには、その機種や特徴などによってメリット・デメリットがあるため、使用する機種などのメリットを最大限に引き出すことによって、最大の教育効果を発揮します(下表参照)。

表:主なVRコンテンツの種類とそれぞれの主なメリット・デメリット

 

主なVRコンテンツの種類

3DCG型コンテンツ

実写型コンテンツ

メリット

・転落・感電などの事故の状況を疑似体験でき、安全意識の向上ができる 
・予め決めた範囲内なら自由に移動可能
・立ち位置や動作の速さもコントロール可能

・実際の自社現場・設備での作業映像を使った、体験型トレーニングができる
・自社において重要度の高い作業・安全事項に関するVR教材が作成できる 
・作成できるコンテンツ数に上限がないため、追加費用なく教材を拡充できる

デメリット

・人間と同じ滑らかで細やかな動きは苦手
・トラッカーを付けていない部分は再現できない(指・胴など)
・トラッキングエラーにより、左右(手足)が逆になることがある

・空想上の建築物、機器設備、人物、生物などは再現不可能
・墜落や爆発などのエネルギーが大きな災害は再現が困難
・立ち位置や動作の速さはコントロール困難

3DCG型コンテンツは、労働災害や事故を3DCGで忠実に再現する特徴があります。このため通例、シナリオに応じてシステムやツールも含めてカスタマイズします。このため、墜落や爆発などの実際には再現不可能な労働災害を再現することには最適です。また、危険回避行動の成否によってシナリオに分岐点を設けることもでき、例えば、成功した場合には回避したことを褒める旨の教育アナウンスが流れ、失敗した場合には正しい回避行動をクリアするまで繰り返すなど、より効果的な訓練が可能となります。

実写型コンテンツを用いたVR教材の概要と利点

実写型コンテンツは、簡単に言うならば実在する作業現場や対象物の映像をVR教材化したものです。360°カメラを使い、現場の設備や作業風景を撮影し、PC(ソフトウェア・アプリ)で編集し、説明文章や別写真、設問やチェックポイントを追加し、教材となるコンテンツを作成します。あとは、受講者がVR用ヘッドマウントディスプレイ(HMD)に転送されたコンテンツを視聴しながらラーニングする、という流れで実施します。

コンテンツの最大の特徴は、実際の映像を教材のベースとして、“誰でも”安全ポイントなどの説明書きを重ねたり、危険ポイントを考えさせる特定の位置またはタイミングを設けたりしながらカスタマイズできることです。また、実際の現場の景色や環境音などにより、現場に足を運ばずに独特の臨場感を得ることができます。“現場そのもの”の中に瞬間移動したような感覚です。

このように実際の現場の映像を素材とすることから、現場状況も作業内容も分からない新規配属者に対しても、異なる現場に配置されたベテラン作業者に対しても適応でき、かつ再現性の高い教育効果が期待されます。また、現場のレイアウト変更や作業内容変更があっても、撮影さえやり直せば“誰でも”コンテンツを改訂することが可能というメリットがあります。一方で、3DCGのような“労働災害の再現”は不得意です。故意に労働災害を起こして撮影はできないため、事故が起きた様子を疑似的に再現するなど、360°カメラでの撮影に工夫が必要です。

なお、実際の現場作業者の映像にテキストやチェックポイントを重ねて表示することが可能であるということは、”その人にしかできないこと”を動画などで記録し”伝承”するというアイデアにも拡がり、さらには”OJTに成り代わる教材”として応用も可能だということも特徴の一つです。マニュアルが存在しない作業を録画しHMDで視聴するだけでもOJTと同様の効果を得られるでしょう。また安全衛生面のマニュアルだけでなく、品質面に対するポイントを設けたマニュアルや、接客などのサービス面の向上を図るための対人的マニュアルなども、比較的容易に制作できることも利点として挙げられます。

これらのことから、3DCG型コンテンツは現実では再現不可能な“労働災害を再現”し、危険感受性向上のメリットがある一方、実写型コンテンツは労働災害の再現こそ不可能であっても、“災害の予防ポイント”を現地現物の撮影データをベースに視聴させながらより具体的に学べることがお分かりになったと思います。

安全衛生教育が労働災害を防止するために実施すべきものであるならば、やはり、実写型コンテンツを用いたVR教材こそ、危険を具体的に予知させ、関連法令と自社マニュアルに則った具体的な予防措置や回避行動を学習することができる、唯一のVR教材ではないでしょうか。

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こんなVR教材があったらいいのにな(ユースケースのご提案)

最後に、今後のVR教材を用いた安全衛生教育を実施するにあたって、より一層“安全に資する”ためには“こんなVR教材があったらいいのにな”と考えていることを、実写型コンテンツを用いたVR教材のユースケースとしていくつかご提案します。

ユースケース①「リアル墜落シナリオ」

・マネキンの頭部に360°カメラを取付け、そのマネキンを、手摺の無い足場や開口部、屋上などから突き落として墜落させる。
・フルハーネス型墜落制止用器具を着用しなかったパターンAと、フルハーネス型墜落制止用器具を着用していたパターンBの両方を撮影しておき、高所作業開始時にフルハーネス型墜落制止用器具の使用に対する分岐シナリオを設ける。
・手摺など墜落防止措置を実施したパターンCも撮影する。
・VR教育では、パターンABとも視聴したあと、手摺の設置に関する法令や自社ルールを学習し、作業開始前に元に戻って墜落予防措置を実施させ、パターンCを視聴させて墜落防止措置の完了を指差呼称する。

ユースケース②「リアル感電シナリオ」

・撮影者の頭部に360°カメラを取付け、正しい停電作業のパターンA及び正しい活線作業のパターンBを実施させる。
・停電状態において、停電措置を間違ったパターンCと保護具等を使用しなかったパターンDの両方を撮影しておく。
・停電作業開始時に、停電措置に対する分岐シナリオを設ける。
・活線作業開始時に、保護具等の使用に対する分岐シナリオを設ける。
・VR教育では、手等に「電流発生装置」を装着させておき、パターンC又はDを視聴した時に微電流を流す(疑似感電)。そのあと、感電防止措置に関する法令や自社ルールを学習し、作業開始前に元に戻ってパターンA又はBを視聴させ、感電防止措置の完了を指差呼称する。

ユースケース③「リアル薬傷シナリオ」

・ガラス等の容器内に360°カメラを取付け、その容器を薬注装置やバルブに近づけた状態で、残圧ゼロを確認した正常なパターンAを撮影しておく。
・残圧により薬液が容器に向かって漏れ出てくるもしくは噴き出してくるパターンBを撮影させる。
・頭部保護具を着用したパターンCも撮影しておき、頭部保護具の着用有無の分岐シナリオを設ける。
・VR教育では、パターンBCの両方を視聴させたあと、薬傷防止に関する法令や自社ルールを学習し、作業開始前に元に戻ってパターンAを視聴させ薬傷防止措置の完了を指差呼称する。

ユースケース④「リアル意識朦朧(鬱・睡魔・貧血・熱中症・中毒等)シナリオ」

・撮影者の頭部に360°カメラを取付け、通常作業を正常にこなすパターンAを撮影しておく。
・操作を間違える、頭がふらつく、暗転や明転、倒れる、墜落する、水没するなどのパターンBを撮影させる。
・長時間労働状況や深夜の様子、高温高湿、有機溶剤作業など、意識朦朧となる原因を撮影したパターンCを撮影しておく。
・意識朦朧となる原因を排除したり緩和する対策を撮影したパターンDも撮影しておく。
・VR教育では、パターンBCの両方を視聴させたあと、衛生管理(体調管理)に関する法令や自社ルールを学習し、作業開始前に元に戻ってパターンDを視聴させ衛生管理(体調管理)の完了を指差呼称させ、パターンAを視聴して完結する。

これらの他にも、労働災害の種類だけ、アイデアが拡がっていくと思います。労働災害を想定しておき、「正常状態」と「異常状態」、「原因」と「結果」、「措置実行の有無」、「指差呼称による確実な実行」というポイントさえ押さえておけば、あとは撮影するだけで、どなたでも制作でき、より具体的な安全衛生教育を実現できるのではないでしょうか。

コラムに寄せて

労働災害は、危険源に近づく作業が存在する限り、必ずそのリスクも存在します。ただでさえ、作業がなかったとしても偶発的な事故や自然災害や病原体の蔓延に伴う怪我や病気も発生する可能性は無いわけではありません。

しかし、それらのリスクをできる限り低減しようと考えて初めて、機械に備わる事故防止装置や設置物の存在意義、管理監督者や仲間の行動や言動のひとつひとつに大きな意味があることや、関連する法令や自社ルールの意図や効果があることがわかり、全てに守られながら働くことができていることが分かるものです。

それでも効果が期待できないと考えることがあるのならば、一旦、何も予防措置がされていないようなゼロベースで物事をシミュレーションしてみてください。それから、別の方法や既存方法の組み合わせを試したり、新しい技術や資源を取り入れたりしながら、自ら又は共に考え続けることによって、きっと労働災害防止の一歩を踏み出せるものだと確信しています。本コラムが、労働災害を防止するための“理想の安全衛生活動”を実現するための一助となれば幸いです。

前回:【第6回】安全衛生教育に適したVR教材とは その1

実写型のVR教材が制作できる「mcframe MOTION VR-learning」の詳細はこちら

安全衛生教育にVRが有効な理由
野間 義広
野間 義広
労働安全コンサルタント(化−第591号) 製造業や建設業などにおける危険有害作業経験と管理経験を併せ持ち、歯に衣着せぬコンサルティングで多方面から信頼を得ている安全衛生専門家。安全診断業務のほか、安全衛生推進者養成講習や各種特別教育などの安全衛生教育講師、業務支援コンテンツ制作やVR教育の普及に取り組んでいる。日本労働安全衛生コンサルタント会会員。