労働安全の費用対効果
労働安全規則は、企業が従業員の安全と健康を守るために不可欠なものであり、法的に義務付けられています。しかし、現実にはこれらの規則が徹底されず、重大な労働災害が発生するケースが後を絶ちません。では、なぜ労働安全規則は重要にもかかわらず、守られないのでしょうか。そこには現場ならではの事情と、安全に関する認識の違いなど、様々な要因が見え隠れしています。安全規則を守らない場合にはどのようなリスクが存在するのでしょうか?また、安全規則を守ればどのようなメリットがあるのでしょうか?本項では、安全に資する費用対効果を見ていきながら、安全を守ることの意味を再確認します。
一たび安全をそこない、事故を引き起こしてしまえば社員とその家族を守れない、という経営として非常に悲しい事態が生まれてしまうことを私たちは重々わかっています。
事故が起きると、企業には社会的責任、刑事的責任、民事的責任が発生します。取引先や顧客、地域社会にまで損害を発生させる可能性もあるし、それらに伴う多額な賠償金額の支払責任も発生します。業務上過失致死傷罪などといった刑事罰に問われたり、債務不履行責任、不法行為責任なども問われたりすること起こりえます。
労働災害による影響
従業員が鉄骨組立作業で天井梁取付作業の完了後、次の作業のために4階から地上へ降りようとして命綱を外しタラップへわたろうとした時、地上へ転落し、肺と脳に損傷を負い死亡したケースでは、2,000万円の損害賠償が算出されたケースもあります。
さらには市場・社会・警察・保険会社・労基署などへの事故の経緯や説明等、諸々の対応に大幅な労力を投入しなければなりません。こちらの金額は具体的に示すのは難しいですが、事故対応に投入された人員、ルールの変更、安全のための設備改修、安全学習の徹底、など、損害賠償金額をはるかに上回る金額規模になることは予想に難しくはありません。さらには、今の世は全国民が匿名で世界に対する発信力を持ってしまっている時代です。それゆえに20年前とは比較にならないほど圧倒的に大きな風評被害が発生します。あってはならないことが前提ですが、現実に何かしらの事故が発生した直後のメディア対策のために、記者会見の仕方トレーニングなどへの投資を行っている企業さえもあります。ここでの対応をミスってしまえばより大きな風評被害へと派生し、それが業績や株価、社会的信頼の失墜など、経営へのネガティブインパクトが計り知れないほど大きなものとなります。
労災慰謝料の相場
中央労働災害防止協会(中災防)が139の事業場を対象に、安全に対しどのくらいの投資をしているか、その効果はどの程度なのかの調査・金額換算試算した調査レポートによると、万が一事故が発生した場合の発生損失金額が6億、さらに事故によって損なわれる生産の金額換算が約1億、計7億と試算している。というものもあります。
もちろん業種業界の違い、事業場で扱っているもの違いなどがあり一概に言えることではありませんが、そのぐらいの損害が発生するという警鐘を鳴らすには有効な1つのレポートであったと思います。
そのようなことは言うまでもなく重々わかっているにもかかわらず、令和6年4月8日時点での統計では、令和5年(1~12月)における死亡社数が全産業合わせて755名も出ています。その61%が「墜落・転落」「はさまれ・巻き込まれ」「道路での交通事故」となっており、令和4年と比較しほぼ同値、つまり私たちは同じような過ちを繰り返しているのです。
死亡災害事故原因
安全を守ることは誰しもが当たり前として理解はしています。しかしながら、安全を守り続けることの難しさもまた、データからも見えてきます。今回は安全に関する項目を、労働安全の費用対効果としてお金に置き換えて考えてみましたが、もちろん人の命はお金に置き換えることはできません。安全を守る=社員を守る=社会を守る=会社を守る、ということ常に対する意識を常に鮮度の高い状態にキープしなければ、安全は守られないのです。