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コラム

安全文化醸成により労働災害を減らす方法

【第4回】全社員が当事者意識を持つために何をすればいいか?

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※本コラムは2023年2月28日開催セミナー「安全文化醸成により労働災害を減らす方法とは」の内容を編集したものです。

前回まで安全文化とはなにか、その醸成のための「打ち手」などをご紹介してきましたが、今回は安全文化醸成のための最大のポイントである「全社員が当事者意識を持つ」ために何をすればいいか、についてご紹介します。

安全文化醸成に必要なたった一つのポイントとは?

企業や組織における安全文化を醸成するためには、安全管理者だけがいくら頑張っても効果はありません。トップから管理職、一般社員はもちろん、協力企業や非正規社員など関わる全員が、安全を自分事化することではじめて安全文化を醸成できるのです。

<図12>では、安全文化醸成に必要なたった一つのポイントとして、「全社員が当事者意識を持つ」ためにどうすべきかを整理しました。全員が安全を自分事化すること、の他に、間接部門においても業務上のミスを「業務事故」として取り扱うことや、情報連携のミス、入力ミスなども「業務事故」である、などを列記しましたが、安全文化醸成のためにはまさに、現場で作業する人だけでなく人事や経理などバックヤードで働く人達にも「自分は安全の当事者である」という自覚と責任を持たせることが求められるのです。

安全文化醸成に必要なこと

<図12>安全文化醸成に必要なこと

業務上のミスも間接部門のミスも業務事故

「業務上のミスも間接部門でも業務事故というように捉えていく」とは言っても、現実にはそう捉えることは本当に難しい部分があるとは思います。しかし、安全というのは現場だけが取り組んでいればいいという問題ではありません。間接部門を含めた全員が、誰に聞いても「安全第一」と返ってくるようでないと、本当の意味での安全文化の醸成はできていきません。全社員に当事者意識を持たせるためには間接部門のミスも「業務事故」と捉えていくという姿勢を明確にしていくことはとても大切です。

トップが覚悟を決めて宣言することが決め手

しかし、こうしたアプローチは安全管理者だけが宣言しても影響力は限られていますし、また、業務の範疇を超えてしまう場合すらあります。そこで、経営トップや工場長など、影響力と権限のある立場から宣言してもらうことが一番良い方法です。

安全文化診断の結果で、8軸の項目のうち、「組織統率」が同じ会社の工場であってもある工場ではAランク、別の工場ではEランクのように、かなりの隔たりが生じることがあります。この結果には、その工場をまとめている工場長などのトップの考えが反映されることが多いです。トップ自身が安全文化の醸成についてどれだけ腹落ちしているか、覚悟を持って取り組んでいるか、が大きな決め手となってきます。トップが率先して「うちは安全第一でやっていくんだ」と強力に打ち出せば、その組織全体に安全文化が醸成されやすくなっていくのです。

現場のベテランをどう巻き込んでいくか

トップが「安全第一」と宣言していても、現場の行動が依然として納期優先、売上優先のままで、なかなか安全文化が醸成されていかない、というケースも実は少なくありません。

これは現場のベテランは作業に慣れているため、意識の変化、行動変容が起きづらいというところに原因があります。例えば、手袋をすべき作業を素手でやってしまったり、高所作業で安全帯をしなかったりなど、納期優先のために安全に必要な一手間を省いてしまうのです。

さらに問題なのはそのベテランが熟練工などであった場合、周りに対しての影響力が大きいという点です。安全教育をしていても、現場に行くと全然守られていない、といったケースでは、ベテランが「安全対策は面倒だから、現場ではなく安全担当だけでやればいい」「今までもそんなに事故は起きていないよ」といった考えが根付いてしまっていることが原因であることが多くあります。

このような現場では、新入はもちろん、ともすれば中堅社員すらも、「それでいいのなら、わざわざ余計な防護具を着用したり、面倒くさい手順を踏んだりしなくても良いじゃないか」となってしまいます。これは安全管理者としてはとても頭の痛い問題です。

対策は、安全を守る意味を紐解いていくこと

こうしたケースでは、「安全を守る」ということを、意味を根気よく順々に紐解いていくことが有効な手段です。例えば、労災事故を起こしてしまったと仮定して、「どこまで影響が及ぶのか?」ということを身近なところから想定していくことなどです。

ベテランの方々は、「事故と言ってもせいぜい自分が痛い思いをすればそれで済む」くらいの想定をされていることが多く、周囲への影響という意味では「安全管理担当者にちょっと迷惑がかかるなあ」くらいの範囲しか見えていません。しかし、事故の影響は自分自身にとどまらず、会社や組織に甚大な被害を及ぼします※。さらにはご家族にもその影響は及ぶのです。

そのため、「一度労災事故が起こればこの辺まで影響が及ぶんですよ」ということを認識させることが必要です。自分が痛い思いをするだけではなく、会社にはイメージダウンなどの損失を与えますし、万一亡くなられた時に、残されたご家族の方は一体どうするのですか?、と問いかけるのです。

人はなんとなく分かっていても、そこをしっかりと言葉にして明示されないとなかなか問題点を認識できないものです。具体例を示して、「えっ!そこまで影響が及ぶの?」という気づきがあってはじめて、人の価値観は変わっていくのです。

・異なった価値観をぶつけ合うグループディスカッションも有効

また、どうしても安全最優先という価値観になれない方には、安全管理者だけがアプローチするのではなく、グループディスカッションでいろいろな方たちと話し合うことも有効です。例えば、同じ工場の中にも安全第一と思っている方もいれば、売上第一という方も、さらには納期最優先という方もいるでしょう。そういった方たちに価値観をぶつけあってもらう中で気づきが生まれるように促すのです。

安全管理者は、ヒントを与えたり、全体的に安全第一に向かうようにフォローしたりという役割となります。特に若手とベテランを一緒のグループにすると、価値観が大きく違う傾向がありますので、そのギャップから非常に良い気づきをお互いに得ることができます。

・まとめ「安全文化醸成に特効薬はない」

ここまで4回にわたり、「安全文化醸成により労働災害を減らす方法」について見てきました。最後にまとめとして、以下の3つのポイントを上げておきます。
まとめ

3つありますように、安全文化醸成には特効薬がありません。何かこれだけをやっていれば解決するという特別な手段は存在しません。これまでご紹介したような「打ち手」を含めて、何か一つ取り組みを開始すればその影響で少しずつそのチームが良くなったり、その影響が隣のチームに及んだりといった、副次的な効果も含めながら少しずつ広がっていくのが安全文化醸成の特徴です。

そのため、状況に合わせて一つ一つの「打ち手」を確認しながら、「じゃあ次の一手はこれをやっていきましょう」とか「今度はこういったことに取り組んでいきましょう」というように、地道にやっていくしかありません。

今回、その取り組みの一つとして「安全文化診断」と、その活用方法をご紹介しました。このコラムが皆様の安全文化醸成のための一助となれば幸いです。

次回からは「ビジネスエンジニアリング株式会社」による、自分で作成できるVR教材を活用したオペレーション強化策についてご紹介する予定です。

【第5回】「現場のオペレーション」の課題を解決するVR教材に続く

永尾 大作 氏
永尾 大作 氏
株式会社ジェック コンサルタント
電気工事士、施工管理技士の資格を有し、これまで多くの安全管理者に対しての教育を実施し、安全意識の醸成、安全教育のレベルアップをご支援しています。理系ならではのロジカル思考と、常にポジティブな姿勢で、現場の行動変容に定評のあるコンサルタントです。
https://www.jecc-net.co.jp/