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レポート:北川工業株式会社が取り組むカーボンニュートラル

2万種のカーボンフットプリント算定を実現する仕組みづくりに挑戦

「mcframe 7 CFP」導入PoCは社内への啓発効果も

電子機器の電磁波ノイズ対策製品/ソリューションを提供する北川工業株式会社(愛知県稲沢市、代表取締役社長:平川佳浩)は、自社のビジネスプロセスにおけるCO2排出量の削減に本腰を入れている。従来取り組んできた組織単位のCO2換算排出量可視化の次のフェーズとして、ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)のカーボンフットプリント算定システム「mcframe 7 CFP」を採用し、製品単位のCO2換算排出量算定(カーボンフットプリント)に着手した。

mcframe 7 CFPの導入にあたって同社はPoCを実施し、B-EN-Gとmcframeのビジネスパートナーである株式会社インテックがこれを共同で支援。課題を整理しつつ、mcframe 7 CFPを活用したカーボンフットプリント可視化や今後の取り組みの道筋を明確にした。

近年、CSRの観点のみならず、ビジネス上の重要課題として脱炭素や低炭素化を捉える動きが広がっているが、実際の取り組みはまだまだ大企業が中心。そんな中で北川工業がCO2排出量削減に向け、デジタルテクノロジーへの投資を含む具体的な一歩を踏み出した背景にはどんな課題意識があったのか。プロジェクトを主導する鈴木浩一・常務取締役管理本部長と大嶋聡司・管理本部管理部第2管理室長にお話をうかがった。

厳しさを増す顧客要求に応えカーボンフットプリント可視化に着手

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(右)北川工業株式会社
常務取締役管理本部長 鈴木 浩一 氏
(左)北川工業株式会社 管理本部 管理部
第2管理室長 大嶋 聡司 氏

――北川工業がカーボンフットプリントの可視化・削減に本格的に取り組み始めた背景をお聞かせください。

鈴木常務(以下鈴木):当社は電磁波ノイズによるエレクトロニクス機器の誤作動を防止するための電磁波環境コンポーネント、熱設計コンポーネントや、精密エンジニアリングコンポーネントといった製品を提供する部品メーカーです。近年では機器メーカーなどのお客様に自社製品を当社の拠点に持ち込んでいただき、一緒に電磁波ノイズ対策を考えるというソリューションサービス事業が拡大しており、お客様のニーズにきめ細かく応えられることを強みとしています。

そうした観点では近年、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けた取り組みを進めているお客様が多く、部品メーカーである当社にも当然、カーボンフットプリントの提供、さらには製品製造におけるCO2排出量削減が求められるようになってきています。こうしたご要望に率先して応えていくことが競争力に直結してくるというのが、カーボンフットプリント算定に着手した最大の理由です。

また、当社が所属する日東工業グループは、「地球の未来に『信頼と安心』を届ける企業グループへ」という長期ビジョンを掲げています。企業活動をしていく中で、カーボンニュートラルは避けて通れない課題であり、むしろこれに向き合わない企業は生き残れないのではないかと考えています。

――具体的にはどんなプロセスでどんな取り組みを進めたのでしょうか。

鈴木:まずは2021年に、30年度までにCO2排出量を20年度比で30%削減するという目標を掲げました。その達成に向け、CO2をはじめとする温室効果ガス(GHG)の排出量算定・報告における国際基準である「GHGプロトコル」に則り、Scope1からScope3※1まで組織単位のCO2換算排出量を手作業で算出し、スプレッドシートにまとめました。

大嶋室長(以下大嶋):組織単位の数値化は、「力わざ」ではありましたが比較的簡単でした。ただ、取り組むうちに新たな課題が見えてきました。CO2排出量削減に向けて、どこにフォーカスして、どんな手を打つべきかを検討するためには、基礎となる情報として製品単位でCO2排出量を把握する必要があるということです。

当社の製品は非常に種類が多く、約2万種という規模ですので、会社全体のCO2排出量を製品ごとに按分して数値化する場合、手作業では無理なのは明らかでした。このハードルをクリアしなければ、CO2排出量30%削減に向けた取り組みを加速させることはできません。そこで、カーボンフットプリント算定をITの力である程度自動化できる仕組みを構築しようとの発想に至りました。

北川工業は生産・販売・原価管理システムとしてB-EN-Gのmcframe 7を採用していますが、インテックはその導入支援に加え、業務改革、働き方改革のコンサルティングも手がけてくれていましたので、カーボンフットプリント算定についてもいいツールがないか相談してみました。すると、ちょうどmcframe 7 CFPが開発・提供されるタイミングとのことで、詳しく話を聞いてみると、まさに私たちがやりたいことを網羅しているシステムだと感じました。

mcframe 7 SCMの生産実績データなどをそのまま活用できるなど、mcframe 7ファミリーとしての親和性の高さも魅力で、導入や運用の負荷を下げてくれるのではという期待もありました。また、カーボンフットプリント算定は組織単位のCO2排出量を各製品に按分するというやり方にするしかないと考えていて、ここにmcframe 7 PCMを活用した原価管理における費用賦課と費用配賦という考え方が生きました。原価管理とカーボンフットプリント算定の考え方の類似性を説明することで、カーボンフットプリントに対する現場の理解を促進することができるとも考えました。

実証型の導入で標準を自らつくる、黎明期ならではの苦労

――mcframe 7 CFPの導入にあたっては、北川工業の狙いどおりに活用できて成果が期待できそうか、約4カ月かけて実証(PoC)を進めたそうですね。

大嶋:カーボンフットプリント算定の領域はまだまだ黎明期です。mcframe 7 CFPの競合製品を探そうとしても、なかなか見つけられないという状況ですから。そんな中で、果たして当社がやろうとしていることがスタンダードから大きく逸脱していないのか、当初は自信がありませんでした。インテックやB-EN-Gの知見も提供してもらいながら、mcframe 7 CFPを活用して世の中の流れに沿ったカーボンフットプリント算定の取り組みが進められるという確証を得たかったというのが率直なところです。

――PoCでフォーカスしたのはどのような点でしょうか。

大嶋:先ほど申し上げたとおり、当社製品は約2万種と膨大で、製造プロセスも多種多様です。CO2排出量削減のポイントを見つけるためには、それらを全て網羅したかたちでカーボンフットプリントを算定できなければなりません。mcframe 7 CFPで全製品のカーボンフットプリント算定が可能なのかどうかをまずは確認する必要がありました。そこで製造プロセスなどの類型を整理した上で、全類型をカバーできる主要な製品群として13製品をピックアップしてPoCを行いました。

 一方で、mcframe 7 CFPがツールとして有効であることが実証できたとしても、それだけで実際の取り組みがスムーズに進むわけではないだろうとも想定していました。本格的に全社展開する前に、技術的な課題や組織的な課題をあぶり出すというのもPoCの目的の一つでした。

初めての取り組みなので暗中模索の側面もありましたが、生産管理に深く入り込んで当社の業務を支援してくれているインテックがわれわれも気づかないところを指摘してくれるなど、まさにパートナーとして一緒に汗をかいてくれました。PoCの対象となる13製品の絞り込みは特に重要なポイントでしたが、彼らの知見とアドバイスには大変助けられました。また、B-EN-Gは開発元の立場から、mcframe 7 CFPを活用したカーボンフットプリント算定をどのように進めるべきか提案してくれました。

――PoCを通して抽出された課題は?

大嶋:まず、カーボンフットプリント算定を全製品に展開するためには、約2万種全てについてCO2排出原単位のデータベース※2とマッピングしなければならないことが改めて明確になりました。膨大な工数がかかるわけですが、これをやるしかない。そして、これは社内の1部署でできることではないので、全社的にどのような体制をつくって進めていくのかも重要なテーマです。

また、全製品のカーボンフットプリント算定ができるようになれば、「この製品のこの製造プロセスでCO2排出量が多い」といったことが分かるようになり、CO2排出量削減に向けた改善ポイントが明確になるわけですが、その後にどうするのかという方針もこれから固めなければなりません。新製品を開発する場合も、CO2排出量に関する評価指標を入れる必要があるでしょう。

あとはシステムの機能に対する要望になりますが、カーボンフットプリントの算定結果をより使いやすいかたちで管理できる仕組みがあるといいと思っています。カーボンフットプリントのデータをmcframe 7 CFPに格納して、お客様より情報開示のご要望を頂いたら簡単に取り出して共有できるような仕組みがあるといいですね。このあたりはPoCを通じてB-EN-Gともディスカッションしてきたので、今後の機能拡充に期待しています。

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関係部門が「自分ごと」と捉えることで取り組みが加速

――カーボンフットプリント算定はこれから本格的な取り組みを始める段階ですが、現時点での手応えはいかでしょうか。

鈴木:PoCでmcframe 7 CFPを活用したカーボンフットプリント算定の道筋が見えたこと、そして課題を整理して今後やるべきことが明確になったことは大きな成果です。加えて、一連の取り組みを通じて、CO2排出量削減に責任を持って取り組まなければならないという意識が社内で着実に広がっているのは副次的なメリットだったと言えるかもしれません。

PoCを進めるにあたって、社内では総務、IT、開発、調達の4部署からメンバーを選出したのですが、これにより部署の偏りなくCO2排出量削減の重要性に対する意識が高まり、具体的な手法に関する知識やノウハウも蓄積できた実感があります。先ほど大嶋から話があった各製品とCO2排出原単位データベースとのマッピングについても、多くの部署が責任を自覚して前向きに取り組んでくれています。特定の部署だけでなく、幅広い社員が当事者意識を持ってカーボンニュートラルに向き合っていると言えるのではないでしょうか。

大嶋:率直に言うと、当初は必ずしも全てのプロジェクトメンバーがCO2削減に向けて同じ知識量でカーボンフットプリント算定に向き合うことができていたわけではないです。それでも、各部署で自律的に、責任を持って担当箇所に取り組んでもらうようにプロジェクトの進め方を工夫しましたし、役員である鈴木がさまざまな場面でカーボンフットプリント算定の意義や重要性を繰り返し周知したこともあって、社内全体の意識が大きく変わったと思っています。

――今後の展望をお聞かせください。

大嶋:PoCであぶり出した課題を踏まえた具体的な取り組みを、来年度(24年4月)から本格的に進める計画です。鈴木が冒頭で申し上げたように、30年度までにCO2排出量を20年度比で30%削減するという目標は対外的に公表しているものですので、この目標をしっかり達成できるスケジュールで全製品のカーボンフットプリント算定を実現したいですね。CO2排出量の削減活動に十分な時間を充てるには、ここをできるだけ早くクリアする必要がありますので、重要課題として取り組んでいます。

鈴木:カーボンフットプリントを可視化した後、具体的にCO2排出量をどのように削減していくかについては、これから議論・検討すべきことも多いですが、大まかな方向性として見えていることもあります。原材料の調達プロセスでサプライヤーからカーボンフットプリントの情報を収集してScope3のより精緻な可視化を進めるというのは遠からず着手することになるでしょう。生産管理や製造管理をもっと高度化することでロスを減らし、コストを最適化するとともにCO2排出量を減らしていくのも必要な取り組みだと考えています。



※1 Scope1は燃料の燃焼や製品の製造プロセスで自社が直接排出する温室効果ガス(GHG)、Scope2は他社から供給された電気、熱、蒸気を使うことで間接的に排出されるGHG、Scope3は原材料・部品の仕入れ、製品の販売や販売後のプロセス(使用、廃棄など)で自社以外から排出されるGHGを指し、全てを合計したものがサプライチェーン全体の排出量になる(GHGはCO2排出量に換算して計算される)

※2 カーボンフットプリント算定にあたっては、事業者が自ら収集した固有データである「1次データ」を基に算定する手法と、外部データベースや論文等でのCO2排出原単位データなどの「2次データ」を基に算定する手法がある。北川工業は代表的なデータベースである「インベントリデータベースIDEA」(LCA活用推進コンソーシアムが提供)を活用している

※本記事及び発言者の部署、肩書は2023年12月取材時点の内容です。
※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は掲載当時のものであり、変更されている可能性があります。
※掲載企業様への直接のご連絡はご容赦ください。

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